◆雛祭りスペシャル 〜 和人の好きなもの◆
今日は何故か雛祭りパーティーと称して、オレんちに和人と真琴が呼ばれている。 もちろん呼んだのは、かあさんだ。この兄弟のことが大好きだから、何かにつけて呼び出していた。 ……で、なんでこの日なのか。分かりきってる事だが、うちに女の子はいない。少なくともオレが知る限りでは。 堂々と、雛祭りパーティをするから、と張り切って召集したのはいいけれど。 面子が男ばっかりっていうのもなんか変な気がするんだが、誰もなんとも思わないらしい。ふたりともにこにこと、かあさんの相手をしていた。 雛祭りって女の祭りのはずだよな? そんな当たり前のことを疑問に思ってしまうくらい、自然だ……。 確かに真琴は女の子にも負けないぐらい可愛いとは思うけど、ついてるもんはついてる。 それでも、まあ、いいかなんて流されてみたり。人生は妥協。和人と逢って、それを学んでしまった。 結局のところ、みんなが楽しけりゃそれが一番だと思う。 だけど。 それにしても……。 「なあ、なんで雛人形なんて買ったんだよ」 そう、オレたちの前には雛人形まで用意されていた。 それはコンパクトサイズのお内裏様とお雛様のセット。うちみたいな小さな家にはもってこいのサイズ。 広告で見るような段飾りじゃないだけ、マシなのか? きっとすんごい悩んでこれで折れたんだろうな、かあさん。 ……って、そう言う問題じゃないだろ? 「欲しかったんだもん。すごく可愛いでしょう? ちょっと真琴ちゃんに似てると思わない?」 言われてみれば色白でふっくらした頬や、小さな口元が似てるかも。 真琴も人形を覗き込んで、「似てるかな〜」 と首をかしげている。「うん、可愛いね」 和人も近づいて真琴と見比べていた。 真琴を見る和人の瞳はすごく優しくて、こっちまでほんわか温かい気分になってしまう。 カッコイイ〜〜。 飽きない……。ずっと見てても飽きないよな。 「ん? どうしたの?」 じっと見てることに気づいた和人の微笑みがオレに向けられて。慌てて視線を逸らしながら、大袈裟なくらい首を振った。 うわーー。オレ、ドキドキしてるよ。もしかして赤くなってるかも。 俯いたオレに、かあさんが「幸せっていいわね〜」 と茶化すように言う。 反論しようとして顔を上げる。そんなことねえよ、その言葉がいつの間にかただの頷きに変わってしまった。 だって、かあさんの顔にも幸せそうな微笑が浮かんでいるから。オレ達の理解者。文句の言える立場じゃない。 それに。 この雛人形だってさあ。 もしもオレが結婚して女の子が生まれたら堂々と飾れたのに。 その夢さえ叶わないんだもんな。息子が高校生にして、先が見えたっていうのが悲しいよね。 「折角買ったんだから、これから毎年やろうよ」 そのくらいしかオレには言うことが出来なかったけど、かあさんは「そうね」 とにっこりと笑ってくれた。 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 「ほんとに美味しい。ちらし寿司って春〜って感じがしますよね。華やかだし」「そうでしょう?! 一度やってみたかったのよね〜、雛祭りパーティー」 「りおうちゃんママ、おいしいね〜」 和人と真琴の上々の反応に、さぞや作り甲斐があるっつーもんだ。 真琴がちらしずしを頬張りながら、ほんとに美味そうに笑顔を向けている。ごはん粒がついてるぞ。 「真琴、ついてる」 手を伸ばすと、真琴が「ん〜!」 と顔をこっちに寄せてきた。その粒をとって口に入れる。 「あーーー! 理央くん」 和人の視線が痛い。 「なにっ!」 「ずるいよ」 小さな声で和人が呟いた。何がずるいんだよ。 最近わかったことだが、オレが他の人の世話をやいたりするのはかなり嫌みたいだ。それはオレも一緒だから、お互いさまなんだけど。 それにしても、相手は真琴なのに。 まったく……。 「ほら、口あけろ」 膨れっ面の和人の口の前に、すしの上に乗ってたゆでエビをかざす。 「あ、え?! はい。あーーー」 あーんとか言うな!!! 馬鹿。さすがにそこらへんのいちゃいちゃカップルみたいに、「はい、あなた、あ〜〜〜ん」 なんて音符がひらひら飛ぶような真似はゴメンだ。ぽいっと放り込んでやった。 それなのに、そんなもんでも途端に笑顔に早変わり。 思わず笑ってしまった。 わかりやすいやつ。 目の前の和人も笑いながら。 「じゃあ、理央くんも。はい」 同じようにエビを揺ら揺らさせている。 やるんじゃなかった……。 「いや、オレはいいから」 仰け反ろうとしたオレの頭を左手で押さえて、お約束の『あ〜〜ん』という音声付きだ。 あくまでも食べさせるつもりらしい。 真琴と、かあさんに視線を流すと、目に入ってないかのごとく二人で会話をし、和やかな雰囲気を作っている。こっちはあくまでも無視なのか!? こんな和人のアホぶりはもう見慣れてるから……だな。 「ダメだよ、食べなきゃ許さないからね」 「何を許さないんだよ?」 「いろんなこと」 にやりと笑う和人の笑顔が不気味で、……結局、折れた。 ぱくっとエビに食いつく。 「美味しい?」 「うま」 オレの反応に満足がいったのか、それ以上『あ〜〜ん』攻撃は出なかった。 食事も終わり、今残っているのは和人と真琴。 かあさんは、渋々でかけました。 町内役員をしているんだけど、どうやら今日会合があることを忘れていたらしい。 あまりにも浮かれていたせいだろう。 隣のオバサンが呼びに来た時、どうやって誤魔化そうかを考えていたに違いない。宙を彷徨う視線でわかったね、オレには。 その挙句、「ね、理央。いないって言って。あ、具合が悪いでもいいわ」 と、どっちなんだよ、な言い訳を残し隠れようとしたが、結局オバサンに見つかって。 行きたくないーっとかなりごねていたが、強制連行されていった。 哀れ、母。 そりゃあ、この美形兄弟と居る方が、おっさん達といるより数百倍楽しいだろうよ。 「ねえ、りおうちゃん。ケーキ食べようよ」 大事そうに抱えているのは、キッチンに置いてあったはずのもの。 和人が買ってきたケーキの箱を両手で持ち、真琴が『もう待てない状態』 で立っていた。 「今食ったばかりだろ。もう少し待てよ」 「だって食べたいんだもん」 大きな瞳がうるうるしている。この瞳を拒む術があるなら教えて欲しい。耳を塞いで、直視しなければ可能だろうか? それでも成功する確率は十パーセントあるかないかだと思う。 一度見てしまったら、脳裏に焼きついて離れない。頭の中では、真琴のお願いがリプレイされ続け……。 無視することは不可能に近かった。 「……わかったよ」 我ながら苦々しい声。 ふふと小さく笑った和人が真琴と入れ替わりにキッチンに消え、自分達にはコーヒーを真琴には紅茶、それと皿とフォークをトレーに乗せて戻ってきた。 「にいちゃま、開けてもいい?」 今度は和人に聞く。 「いいよ」 やっぱり真琴には甘い。真琴にダメって言った事ないんじゃないだろうか? 小さな手が、箱を広げていく。 そこにはイチゴショートやモンブラン、ミルフィーユ、チョコケーキなど小ぶりのケーキがいくつも入っている。 自分で好きなものをどうぞ、という気配りの人、和人らしい配慮だと思った。 「ぼく、これがいいっ!」 真琴が選んだのは、大きないちごが一つのったイチゴショート。 「じゃあ、オレはミルフィーユ」 カスタード系が好きなのだ。 「にいちゃまは何が好き?」 真琴の問いかけに、 「僕が好きなのは、うーん迷うなあ。理央くんの真剣な時の瞳かな。あ、普通の時も好きだけどね。 あとはねー、腕にすっぽり入るジャストサイズの身体とか……」 「わーーーー、わーーーー、わーーーーーー。バカ。真琴の前で何言ってるんだよっ!」 ばたばたとパニくってるオレを、その腕に囲み、 「でも一番は、その唇かな」 「まったくバカかず……んっ」 瞬間、唇が塞がれ、オレの抗議文は胸の中でだけ読まれていた。 ほんとにバカなんだから。 でもオレも好きだけど。 和人の情熱的なキスも、抱きしめる暖かな腕も、ほっとする微笑も。 全部、大好きだよ。 「にいちゃま、いい加減にしてね。りおうちゃんにもケーキ食べさせてあげたほうがいいよ」 はあ、と大げさに溜息をつき、いつの間にか少しだけ大人びた真琴の姿がそこにあった。 |
2003/03/03
お約束の「貴方が好き」系?(^^; 一年前に書いたものです。
その時は、真琴が少し大人びた感じだったので出さずじまい。
一年持ったら出そうか、なんて思ってて。経ってしまいました。
時の流れって怖い;;
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