雛祭りスペシャル 〜 和人の好きなもの
 今日は何故か雛祭りパーティーと称して、オレんちに和人と真琴が呼ばれている。
 もちろん呼んだのは、かあさんだ。この兄弟のことが大好きだから、何かにつけて呼び出していた。
 ……で、なんでこの日なのか。分かりきってる事だが、うちに女の子はいない。少なくともオレが知る限りでは。
 堂々と、雛祭りパーティをするから、と張り切って召集したのはいいけれど。 面子が男ばっかりっていうのもなんか変な気がするんだが、誰もなんとも思わないらしい。ふたりともにこにこと、かあさんの相手をしていた。
 雛祭りって女の祭りのはずだよな?
 そんな当たり前のことを疑問に思ってしまうくらい、自然だ……。
 確かに真琴は女の子にも負けないぐらい可愛いとは思うけど、ついてるもんはついてる。
 それでも、まあ、いいかなんて流されてみたり。人生は妥協。和人と逢って、それを学んでしまった。 結局のところ、みんなが楽しけりゃそれが一番だと思う。
 だけど。
 それにしても……。
「なあ、なんで雛人形なんて買ったんだよ」
 そう、オレたちの前には雛人形まで用意されていた。
 それはコンパクトサイズのお内裏様とお雛様のセット。うちみたいな小さな家にはもってこいのサイズ。 広告で見るような段飾りじゃないだけ、マシなのか? きっとすんごい悩んでこれで折れたんだろうな、かあさん。
……って、そう言う問題じゃないだろ?
「欲しかったんだもん。すごく可愛いでしょう? ちょっと真琴ちゃんに似てると思わない?」
 言われてみれば色白でふっくらした頬や、小さな口元が似てるかも。
 真琴も人形を覗き込んで、「似てるかな〜」 と首をかしげている。「うん、可愛いね」 和人も近づいて真琴と見比べていた。
 真琴を見る和人の瞳はすごく優しくて、こっちまでほんわか温かい気分になってしまう。
 カッコイイ〜〜。
 飽きない……。ずっと見てても飽きないよな。
「ん? どうしたの?」
 じっと見てることに気づいた和人の微笑みがオレに向けられて。慌てて視線を逸らしながら、大袈裟なくらい首を振った。
 うわーー。オレ、ドキドキしてるよ。もしかして赤くなってるかも。
 俯いたオレに、かあさんが「幸せっていいわね〜」 と茶化すように言う。
 反論しようとして顔を上げる。そんなことねえよ、その言葉がいつの間にかただの頷きに変わってしまった。 だって、かあさんの顔にも幸せそうな微笑が浮かんでいるから。オレ達の理解者。文句の言える立場じゃない。
 それに。
 この雛人形だってさあ。
 もしもオレが結婚して女の子が生まれたら堂々と飾れたのに。 その夢さえ叶わないんだもんな。息子が高校生にして、先が見えたっていうのが悲しいよね。
「折角買ったんだから、これから毎年やろうよ」
 そのくらいしかオレには言うことが出来なかったけど、かあさんは「そうね」 とにっこりと笑ってくれた。

〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「ほんとに美味しい。ちらし寿司って春〜って感じがしますよね。華やかだし」
「そうでしょう?! 一度やってみたかったのよね〜、雛祭りパーティー」
「りおうちゃんママ、おいしいね〜」
 和人と真琴の上々の反応に、さぞや作り甲斐があるっつーもんだ。
 真琴がちらしずしを頬張りながら、ほんとに美味そうに笑顔を向けている。ごはん粒がついてるぞ。
「真琴、ついてる」
 手を伸ばすと、真琴が「ん〜!」 と顔をこっちに寄せてきた。その粒をとって口に入れる。
「あーーー! 理央くん」
 和人の視線が痛い。
「なにっ!」
「ずるいよ」
 小さな声で和人が呟いた。何がずるいんだよ。
 最近わかったことだが、オレが他の人の世話をやいたりするのはかなり嫌みたいだ。それはオレも一緒だから、お互いさまなんだけど。
 それにしても、相手は真琴なのに。
 まったく……。
「ほら、口あけろ」
 膨れっ面の和人の口の前に、すしの上に乗ってたゆでエビをかざす。
「あ、え?! はい。あーーー」
 あーんとか言うな!!!
 馬鹿。さすがにそこらへんのいちゃいちゃカップルみたいに、「はい、あなた、あ〜〜〜ん」 なんて音符がひらひら飛ぶような真似はゴメンだ。ぽいっと放り込んでやった。 それなのに、そんなもんでも途端に笑顔に早変わり。
 思わず笑ってしまった。
 わかりやすいやつ。
 目の前の和人も笑いながら。
「じゃあ、理央くんも。はい」
 同じようにエビを揺ら揺らさせている。
 やるんじゃなかった……。
「いや、オレはいいから」
 仰け反ろうとしたオレの頭を左手で押さえて、お約束の『あ〜〜ん』という音声付きだ。 あくまでも食べさせるつもりらしい。 真琴と、かあさんに視線を流すと、目に入ってないかのごとく二人で会話をし、和やかな雰囲気を作っている。こっちはあくまでも無視なのか!?  こんな和人のアホぶりはもう見慣れてるから……だな。
「ダメだよ、食べなきゃ許さないからね」
「何を許さないんだよ?」
「いろんなこと」
 にやりと笑う和人の笑顔が不気味で、……結局、折れた。
 ぱくっとエビに食いつく。
「美味しい?」
「うま」
 オレの反応に満足がいったのか、それ以上『あ〜〜ん』攻撃は出なかった。



 食事も終わり、今残っているのは和人と真琴。
 かあさんは、渋々でかけました。
 町内役員をしているんだけど、どうやら今日会合があることを忘れていたらしい。 あまりにも浮かれていたせいだろう。 隣のオバサンが呼びに来た時、どうやって誤魔化そうかを考えていたに違いない。宙を彷徨う視線でわかったね、オレには。 その挙句、「ね、理央。いないって言って。あ、具合が悪いでもいいわ」 と、どっちなんだよ、な言い訳を残し隠れようとしたが、結局オバサンに見つかって。 行きたくないーっとかなりごねていたが、強制連行されていった。
 哀れ、母。
 そりゃあ、この美形兄弟と居る方が、おっさん達といるより数百倍楽しいだろうよ。
「ねえ、りおうちゃん。ケーキ食べようよ」
 大事そうに抱えているのは、キッチンに置いてあったはずのもの。 和人が買ってきたケーキの箱を両手で持ち、真琴が『もう待てない状態』 で立っていた。
「今食ったばかりだろ。もう少し待てよ」
「だって食べたいんだもん」
 大きな瞳がうるうるしている。この瞳を拒む術があるなら教えて欲しい。耳を塞いで、直視しなければ可能だろうか? それでも成功する確率は十パーセントあるかないかだと思う。 一度見てしまったら、脳裏に焼きついて離れない。頭の中では、真琴のお願いがリプレイされ続け……。
 無視することは不可能に近かった。
「……わかったよ」
 我ながら苦々しい声。
 ふふと小さく笑った和人が真琴と入れ替わりにキッチンに消え、自分達にはコーヒーを真琴には紅茶、それと皿とフォークをトレーに乗せて戻ってきた。
「にいちゃま、開けてもいい?」
 今度は和人に聞く。
「いいよ」
 やっぱり真琴には甘い。真琴にダメって言った事ないんじゃないだろうか?
 小さな手が、箱を広げていく。
 そこにはイチゴショートやモンブラン、ミルフィーユ、チョコケーキなど小ぶりのケーキがいくつも入っている。 自分で好きなものをどうぞ、という気配りの人、和人らしい配慮だと思った。
「ぼく、これがいいっ!」
 真琴が選んだのは、大きないちごが一つのったイチゴショート。
「じゃあ、オレはミルフィーユ」
 カスタード系が好きなのだ。
「にいちゃまは何が好き?」
 真琴の問いかけに、
「僕が好きなのは、うーん迷うなあ。理央くんの真剣な時の瞳かな。あ、普通の時も好きだけどね。 あとはねー、腕にすっぽり入るジャストサイズの身体とか……」
「わーーーー、わーーーー、わーーーーーー。バカ。真琴の前で何言ってるんだよっ!」
 ばたばたとパニくってるオレを、その腕に囲み、
「でも一番は、その唇かな」
「まったくバカかず……んっ」
 瞬間、唇が塞がれ、オレの抗議文は胸の中でだけ読まれていた。
 ほんとにバカなんだから。
 でもオレも好きだけど。
 和人の情熱的なキスも、抱きしめる暖かな腕も、ほっとする微笑も。
 全部、大好きだよ。
「にいちゃま、いい加減にしてね。りおうちゃんにもケーキ食べさせてあげたほうがいいよ」
 はあ、と大げさに溜息をつき、いつの間にか少しだけ大人びた真琴の姿がそこにあった。

2003/03/03
お約束の「貴方が好き」系?(^^; 一年前に書いたものです。
その時は、真琴が少し大人びた感じだったので出さずじまい。
一年持ったら出そうか、なんて思ってて。経ってしまいました。
時の流れって怖い;;
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