■トップページに戻る■■NOVEL TOP■ |
いちゃいちゃさせて
ピッ……ピッ……ピッ…… 「ん、あ?」 タイマーの音で目が覚めた。 朝、六時半。 「あ、そうか」 昨日は一時過ぎまで電気がついていたから、まだ光は寝てる筈だ。 俺は緩みそうになる頬に渇を入れ、制服に着替えるとそのまま階下に下りていった。 「あら、早いわね?」 「ちょっと光のとこ、行ってくる」 「賭けでもやって負けたの?」 「別に」 「どうせなら、これから交代にしたら? 光ちゃんだって大変でしょう。毎日、起こしにきて、朝食作って」 話が長くなりそうだ。 「んじゃ」 逃げるに限る。 ちょっと! ちゃんと聞きなさい、なんて誰が聞くんだ。一分一秒だって無駄に出来ないんだからさぁ。 今日の俺の野望。 それは、光の寝起きを直撃すること。 たまにはビックリさせるのもいいだろ? 偶然かも知れないけど、月曜ってうちの親も光の親も割と早目に出かけるんだよな。 ミーティングがあるとかないとかで、いつもより数本前の電車に乗ることに決めてて。その時間だと殺人的通勤ラッシュを避けられるらしい。 俺としては毎日早くに出かけてくれてもいいんだけど、身体がついていかないそうだ。年取るとこれだから……。 ま、そんなわけで月曜は特別な日。 その分、光が俺のところに来るのも早いんだけど、たまには俺の方からでもいいかなぁ、なんて昨日の夜、フと思ったわけ。 考えてたら眠れなくなったけど、それは内緒にしとこ。 「ふ。なんかすげぇ楽しい」 秘密の行動ってドキドキするよな。癖になるかも。 〜 〜 〜 〜 〜 自分専用の藍沢家の鍵で、ドアを開ける。コッソリ。 あぁ、心臓がバクバクしてるよ。泥棒ってこんな心境なのかもしれない。 静かに靴をぬぎ、リビングに通じるドアを十センチほどあけて、覗き込む。 うわっ、まだ行ってないんだ。さすがに早すぎたか。 どうしよう……。 ええーい、こうなったら堂々と。 「おはようございます」 でもいつもより少し小声。 「なんだ、航、早いなあ」「あら、ワタ君、おはよう」 「今日は光を起こしに来たんだけど、寝てるよね?」 光の父さんはコーヒー片手に新聞見てるし、母さんはパン齧ってるし。 光とよく似ている笑顔が、俺に問いかける。 「何、罰ゲーム?」 うちの母親と同じ思考なんだな、やっぱり。類は友を呼ぶ、その典型だと思う。 「違うって」 「コーヒー飲む?」 「あとで、光と食べるから」 こんなところでロスってたら、光が起きちまう。 「じゃあ、いってらっしゃい」 早口に言ってドアを閉めようとすると、『なんだよ、そんなに追い立てるなよ』 と光の父さんが笑う。そりゃそうなんだけど、早く行ってくれるにこしたことはないのです。 〜 〜 〜 〜 〜 なるべく音を立てないように、階段を上る。ドアの前に立ち、慎重にノブを回し、手前に引く。今までこんなに気を使ってドアを開けたことなんてない。 その必要があるとすれば犯罪の匂いがプンプンだ。そりゃ、ヤバイだろう。 でも、何かの役に立つかもな。何事も知らないよりは知っていたほうがいい。……とそんなことより。 急がねば。 同じように、最大限、気を引き締めて閉めた。 息を止めていたのを、静かに吐き出す。 ここまでは完璧だ。 ――よく寝てる 窓際に寄せられたベッドにこんもりと丸いカタマリがある。 部屋はじゅうたんが敷いてあるから、音は吸収されるハズ。これは調査済み。特に問題なし。 ベッドに近づいていくと、こっち向きで丸くなっているのがわかった。 忍び足で近づき膝をついた。目の前に光の頭。 無事、到着! この手際の良さ。自分に驚くね。 枕の上、横向きで寝てる光。鼻から下が布団の中。柔らかな髪が不規則に広がり、その顔までも隠そうとする。 そっと座り、しばし堪能。 どのくらい見つめてたら起きるかな? ――ひかり……? 呼んでみるけど、ピクリとも動かない。 ――顔がみえねぇな 布団ずらし作戦を決行する。神経質だからな、起きるかも。 上掛けをゆっくりゆっくり持ち上げて。 駄目だ。ニヤける……。 だって、すっげぇーーーー、可愛い! まつげ長いし、クチビルがポテッとして、肌なんか滑らかで。無防備な寝顔だよなあ。 ――キス…したい 触れるか触れないかぐらいの距離で、瞼に唇を寄せた。 いつもの起床時間まであと五分。 もう、起こしてもいいよな? 時間だもんな。 今度は頬にキス。軽く、触れるだけの。 「ん……」 小さく身動ぎして、ゆっくりと瞼が上がり。ぼんやりとした焦点の中、ふわりと笑う。夢見心地の柔らかな微笑み。 布団の中から、両手を出して、俺の首に交差した。 ――まだ眠い? 「ん……」 首筋に唇を押し当てると、腕に力が入って……。 「なななな、何してんの? 航??!」 凄い勢いで、突き放された。何すんだよ! 「今、気づいたのか?!」 「夢かと思った。リアルだ、と思ったら本物?」 「お前ねぇ……。ほら、時間だ」 時間通りに、起床アラームが鳴り響く。 いつもの時間。いつもの日常。夜が明けた。 「はい、静かにして」 「ん、……な、でここにい、るの?」 キスをする俺の唇をかわしながら、疑問を口にする。 「昨日、閃いたから」 「ヒラメイタ? 何?」 「場所、変えていちゃいちゃするのもいいかなあ、って」 「そんなに変わらないと思うけど?」 「変わるの。だってお前、すっげ暖かいし」 寝てたままの体温ってすごく気持ちいい。 「キスさせて」 身体をずらしたベッドの中に滑り込む。 カーテンを開けて朝の日差しを部屋に満たして。 さわやかな朝のひと時を味わいましょう。 抱きしめて、キスして、抱きしめて、キスして。頬を寄せ合って、愛してるって言って。好きって言って。 「今日も幸せです」 目の前に幸せそうに微笑む人がいる。僕もだよ、と答えてくれる人がいる。 愛しくて、またキスして。 夢中になってたら、遅刻した。 「航のバカ!」 朝食も食い損なった光が真っ赤な顔でプンプン怒るけど、だけど、お互い様だよな。 たまにはこんな日があってもいいんじゃない? SS No13(2003/08/20) |
■トップページに戻る■■NOVEL TOP■ |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||