■トップページに戻る■■NOVEL TOP■ |
啓介の提案……?
暇だ……。 最近、面白いことがぜーんぜんないんだよなあ。 「はあ……」 「どうかした?」 「ああ?」 「ああ? って。自分で溜息ついてるの気づいてないとか?」 小山がずり落ちそうなメガネを中指で押し上げて、不思議そうに言った。 「つまんない……。なあ、楽しいことねえの? よし、お前に課題を与える。俺を楽しませろ!」 どうやら小山は俺のことが好きらしくて、嬉しそうに『はい』なんて返事してくる。 「じゃあ、僕が出題してあげましょう? 第一問!」 にこにこして、手にした参考書をぺらぺらとめくりはじめた。 忘れてた。小山の暇つぶしが勉強だってこと。 「いらん」 まあ、いいやつには違いないが……。 ちょっと、ズレてるんだよなあ。 なんかこう、胸がワクワク〜ッてするようなこと、ないのかねえ……。 机に横向きに頭を乗せると窓から爽やな青空が見えた。 「サボって昼寝でもすっか……」 その時、俺の斜め後方からガタンと椅子を引く音が響く。 フッ。 いたいた。ここにいるじゃねえか。暇つぶしの格好の餌食。 退屈しのぎにはもってこいの相手が! 青山航、口数の少ないクールなにいちゃんだ。別名、俺のおもちゃとも言う。 都合のいいことに、光は一緒に戻ってきていないしね〜。 「光は?」 「加藤に呼ばれてプリント取りに行ってる」 ちなみに加藤というのは、うちらの担任。 「なあなあ。俺さ、この間、光から相談されちゃってサ」 光という名前を出すと、目の色が変わる。 なんたって、航の大事な恋人だし、そりゃもう、光の為なら火の中水の中って感じなんだよな。 光馬鹿一直線。光中心にまわってるんだよ、奴の世界は。 それだけに……。からかい甲斐もあるってもんだ。 「何をお前に相談するんだ?」 「そりゃあ、ワタ君に言えないことに決まってるだろ?」 ワタ君とは、こいつのあだ名である。 今は普通に名前で呼び合ってるけど、ガキの頃は『ワタ君』『ピカリ』と呼んでたんだと。 んで、現在、その名残で藍沢家の母さんからは、ワタ君と呼ばれてしまうらしい。 ……と、こっそり光が教えてくれたんだ。 ソレ聞いた時、大爆笑だったね。 ピカリは可愛いから似合うけど、この図体、可愛げの無さでワタ君もないだろ? だから、おちょくるときは、時々、こうして使ってるんだ。 「だから、何なんだ。はっきり言えよ」 案の定、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔つきになった。 それでも光の話題が気になるのか、それには触れてこない。 周りを確認すると、小山が右手で押さえた参考書に色マーカーで線を引いているところだった。 俺の話に興味なさそうに、手が動いている。 ま、こいつになら聞かれてもいいや。どうせ光達の関係も知ってるんだし。 耳元に顔を近づける。 「光がさあ……。『僕、攻めになりたい』って言ってたぞ」 なーーんて、嘘でした! ベーっと心の中で訂正して、舌を出した。 そして、しばし反論を待つ。 だけど……。 しーーーん……。 あれ? 反応無し? つまんないの…… もうちょっとなんかあんだろ? 「受け子の話なのに、これはウケなかったのねえ……?」 「三点」 小山がボソリと呟いた。「百点満点中……」と付け足して。 俺の会心の一撃にその点数はなんだ? 「てめえ、三点とはなんだ? 狙ったって取れやしねえぞ、そんな点」 「僕も見たことないよ、そんな点数。存在すること自体、信じられないね」 そんな、ひとしきりお約束の会話がなされるだけの時間がたった頃、 「なななな!! お、お前ら、どう言う会話してんだっ!」 たった今、遠い世界から戻ってきた航が、口をパクパクしながら突っかかってきた。 「ん? なんの話だっけ?」 「何って? 光のことだろーが!!」 「あー、そうだった。すっかり置き去りにしてしまったよ、ワタ君。ごめんな?」 にっこり笑うと、うぅぅ〜とうなり始めた。 お前は言葉を知らない動物か? 「てめえ、殴るぞ?」 言葉は覚えてたようだ。 「受けには受けの悩みがあるんだよ……。仮にも男なわけだし。そういう願望があっても不思議じゃねえだろ?」 ほんとにあるかもしれねえじゃん。光にだって。 「ほら、俺、先輩だし。どうしたらいい? とか訊かれたら答えなきゃって思うわけ。だって可愛い光の為だし」 まだうぅ〜、と唸ってる。 今度は、ほんとに、人間を放棄しちゃったらしい。 「お前は? どうなのよ。光に抱かれるっつーのは?」 「無理だろっ! 考えられねえ! 光の望みはなんだって叶えてやりたい。だけど、これはなあ……」 まあ、そうだろうな。 それより興奮しすぎで声がデカくね? 「まあまあ、落ち着いて……」 恨めしそうな目をして、ムッとしたように口を結んだ。 あはは〜。なんか楽しいかも〜。 「んっんっんっーーーっ」 咳払いをし、小山がマーカーで机をつんつん突付きながら、俺を見てる。チラチラと視線を後方に向けて。 光が戻ってきたのを知らせてるらしい。 「光にはお前の思いを伝えてやるよ。俺にまかせとけ。うまく言ってやるから! な? 元気だせよ」 何が元気なんだか、よくわかんないが、俺は奴を勇気付ける言葉をツラツラと並べた。 最近、またラブラブオーラを出しやがってるから。受け攻めの関係について、少し考えさせてやる。 悩め悩め〜〜。 これで、あとは光にいろいろと吹き込んで。 ふたりきりになった時、妙なぎこちなさが漂う、というシナリオだ。 本当はその場にいたいのは山々だが、覗きの趣味もないからな。 どっちみち、覗かなくったって、聞き出すくらいは簡単だ。ちょっちょっと核心をついてやれば。単純だからさ。 でもさ、実際問題として、どっちにまわってもいいと思うわけよ。 抱きたい、抱かれたいって愛があればこそだし。そういう欲求は自然だと思うんだよねえ。 それが俺の考えなんだけど、そんな真面目な話はこっちに置いといて…… 光にはなんて言おっかなあ。 「どうしたの? 航、元気ないね? さっきまでは元気だったのに……」 柔らかい光の声に、視線をあげた航の表情は何かを決心したかのように、固い。 「何々? なんなの? 航、変だよ〜」 楽しげな光の笑いに、 「ちょっと来い!」 あ、待ってくれよ。俺が光に話したいんだってば! お前が先走ったら、楽しみが半減しちまうんだよ。 「航! ほら、お勉強の時間だよ〜」 俺の静止の声など耳に入らないかのように、光の腕をとって連れて行こうとした。そこを踏ん張っている光。 「え? 授業、始まるよ? 航ってば?!」 急に掴まれた光が、驚きの表情で、航を見上げ、次に俺を見た。眉をしかめたところをみると、俺がけしかけたとでも思っているのだろう。 実際、そうなんだけど……。 ジーッと光に見つめられ、名指しされたかのように立ち上がっていた。 「啓介君?! 君、何か言ったの?」 すこーし、押さえ気味の声に、俺は直立不動の姿勢を崩せない。 「あは? うーん? まあ、大したことじゃない……よ」 もにょもにょ……。 「ふ〜ん。なんだろうねえ。大したことじゃないことって? 僕にも聞かせてほしいんだけど」 光の可愛い顔で凄まれると、ついつい、ごめんなさい、といってしまう情けない俺。 はあ。仕方ない。今までのあらすじを小声で言って聞かせる。 みるみる変わっていく表情。 内容からして真っ赤になり、最後に呆れた顔に変わっていた。 「よく、そんなの思いつくよねえ?」 光の溜息。 「だって、つまんなかったんだもん」 「だもん、じゃねえ!」 ギロリと睨んでいる航。もしや、命の危険性あり? 「もう……。航が本気にするでしょう? そういうこと言わないでくれるかな、啓介君」 「はーい」 呆れ声に笑顔が混じる。そして、ふふっと笑い、航の耳元で囁いた声が俺にも聞こえてしまった。 『でも、まあ……。それも一理あるかな? 今度、変わろうか?』 航の表情がササ〜ッと青くなったのは言うまでもない。 SS No15(2003/10/07) |
■トップページに戻る■■NOVEL TOP■ |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||