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啓介の提案……?

 暇だ……。
 最近、面白いことがぜーんぜんないんだよなあ。
「はあ……」
「どうかした?」
「ああ?」
「ああ? って。自分で溜息ついてるの気づいてないとか?」
 小山がずり落ちそうなメガネを中指で押し上げて、不思議そうに言った。
「つまんない……。なあ、楽しいことねえの? よし、お前に課題を与える。俺を楽しませろ!」
 どうやら小山は俺のことが好きらしくて、嬉しそうに『はい』なんて返事してくる。
「じゃあ、僕が出題してあげましょう? 第一問!」
 にこにこして、手にした参考書をぺらぺらとめくりはじめた。
 忘れてた。小山の暇つぶしが勉強だってこと。
「いらん」
 まあ、いいやつには違いないが……。
 ちょっと、ズレてるんだよなあ。
 なんかこう、胸がワクワク〜ッてするようなこと、ないのかねえ……。
 机に横向きに頭を乗せると窓から爽やな青空が見えた。
「サボって昼寝でもすっか……」
 その時、俺の斜め後方からガタンと椅子を引く音が響く。
 フッ。
 いたいた。ここにいるじゃねえか。暇つぶしの格好の餌食。
 退屈しのぎにはもってこいの相手が!
 青山航、口数の少ないクールなにいちゃんだ。別名、俺のおもちゃとも言う。
 都合のいいことに、光は一緒に戻ってきていないしね〜。
「光は?」
「加藤に呼ばれてプリント取りに行ってる」
 ちなみに加藤というのは、うちらの担任。
「なあなあ。俺さ、この間、光から相談されちゃってサ」
 光という名前を出すと、目の色が変わる。
 なんたって、航の大事な恋人だし、そりゃもう、光の為なら火の中水の中って感じなんだよな。
 光馬鹿一直線。光中心にまわってるんだよ、奴の世界は。
 それだけに……。からかい甲斐もあるってもんだ。
「何をお前に相談するんだ?」
「そりゃあ、ワタ君に言えないことに決まってるだろ?」
 ワタ君とは、こいつのあだ名である。
 今は普通に名前で呼び合ってるけど、ガキの頃は『ワタ君』『ピカリ』と呼んでたんだと。
 んで、現在、その名残で藍沢家の母さんからは、ワタ君と呼ばれてしまうらしい。
 ……と、こっそり光が教えてくれたんだ。
 ソレ聞いた時、大爆笑だったね。
 ピカリは可愛いから似合うけど、この図体、可愛げの無さでワタ君もないだろ?
 だから、おちょくるときは、時々、こうして使ってるんだ。
「だから、何なんだ。はっきり言えよ」
 案の定、眉間に皺を寄せて嫌そうな顔つきになった。 それでも光の話題が気になるのか、それには触れてこない。
 周りを確認すると、小山が右手で押さえた参考書に色マーカーで線を引いているところだった。
 俺の話に興味なさそうに、手が動いている。
 ま、こいつになら聞かれてもいいや。どうせ光達の関係も知ってるんだし。
 耳元に顔を近づける。
「光がさあ……。『僕、攻めになりたい』って言ってたぞ」
 なーーんて、嘘でした! ベーっと心の中で訂正して、舌を出した。
 そして、しばし反論を待つ。
 だけど……。
 しーーーん……。
 あれ? 反応無し?
 つまんないの……
 もうちょっとなんかあんだろ?
「受け子の話なのに、これはウケなかったのねえ……?」
「三点」
 小山がボソリと呟いた。「百点満点中……」と付け足して。
 俺の会心の一撃にその点数はなんだ?
「てめえ、三点とはなんだ? 狙ったって取れやしねえぞ、そんな点」
「僕も見たことないよ、そんな点数。存在すること自体、信じられないね」
 そんな、ひとしきりお約束の会話がなされるだけの時間がたった頃、
「なななな!! お、お前ら、どう言う会話してんだっ!」
 たった今、遠い世界から戻ってきた航が、口をパクパクしながら突っかかってきた。
「ん? なんの話だっけ?」
「何って? 光のことだろーが!!」
「あー、そうだった。すっかり置き去りにしてしまったよ、ワタ君。ごめんな?」
 にっこり笑うと、うぅぅ〜とうなり始めた。
 お前は言葉を知らない動物か?
「てめえ、殴るぞ?」
 言葉は覚えてたようだ。
「受けには受けの悩みがあるんだよ……。仮にも男なわけだし。そういう願望があっても不思議じゃねえだろ?」
 ほんとにあるかもしれねえじゃん。光にだって。
「ほら、俺、先輩だし。どうしたらいい? とか訊かれたら答えなきゃって思うわけ。だって可愛い光の為だし」
 まだうぅ〜、と唸ってる。
 今度は、ほんとに、人間を放棄しちゃったらしい。
「お前は? どうなのよ。光に抱かれるっつーのは?」
「無理だろっ! 考えられねえ! 光の望みはなんだって叶えてやりたい。だけど、これはなあ……」
 まあ、そうだろうな。
 それより興奮しすぎで声がデカくね?
「まあまあ、落ち着いて……」
 恨めしそうな目をして、ムッとしたように口を結んだ。
 あはは〜。なんか楽しいかも〜。
「んっんっんっーーーっ」
 咳払いをし、小山がマーカーで机をつんつん突付きながら、俺を見てる。チラチラと視線を後方に向けて。 光が戻ってきたのを知らせてるらしい。
「光にはお前の思いを伝えてやるよ。俺にまかせとけ。うまく言ってやるから! な? 元気だせよ」
 何が元気なんだか、よくわかんないが、俺は奴を勇気付ける言葉をツラツラと並べた。
 最近、またラブラブオーラを出しやがってるから。受け攻めの関係について、少し考えさせてやる。
 悩め悩め〜〜。
 これで、あとは光にいろいろと吹き込んで。
 ふたりきりになった時、妙なぎこちなさが漂う、というシナリオだ。
 本当はその場にいたいのは山々だが、覗きの趣味もないからな。
 どっちみち、覗かなくったって、聞き出すくらいは簡単だ。ちょっちょっと核心をついてやれば。単純だからさ。
 でもさ、実際問題として、どっちにまわってもいいと思うわけよ。
 抱きたい、抱かれたいって愛があればこそだし。そういう欲求は自然だと思うんだよねえ。
 それが俺の考えなんだけど、そんな真面目な話はこっちに置いといて……
 光にはなんて言おっかなあ。
「どうしたの? 航、元気ないね? さっきまでは元気だったのに……」
 柔らかい光の声に、視線をあげた航の表情は何かを決心したかのように、固い。
「何々? なんなの? 航、変だよ〜」
 楽しげな光の笑いに、
「ちょっと来い!」
 あ、待ってくれよ。俺が光に話したいんだってば!
 お前が先走ったら、楽しみが半減しちまうんだよ。
「航! ほら、お勉強の時間だよ〜」
 俺の静止の声など耳に入らないかのように、光の腕をとって連れて行こうとした。そこを踏ん張っている光。
「え? 授業、始まるよ? 航ってば?!」
 急に掴まれた光が、驚きの表情で、航を見上げ、次に俺を見た。眉をしかめたところをみると、俺がけしかけたとでも思っているのだろう。
 実際、そうなんだけど……。
 ジーッと光に見つめられ、名指しされたかのように立ち上がっていた。
「啓介君?! 君、何か言ったの?」
 すこーし、押さえ気味の声に、俺は直立不動の姿勢を崩せない。
「あは? うーん? まあ、大したことじゃない……よ」 もにょもにょ……。
「ふ〜ん。なんだろうねえ。大したことじゃないことって? 僕にも聞かせてほしいんだけど」
 光の可愛い顔で凄まれると、ついつい、ごめんなさい、といってしまう情けない俺。
 はあ。仕方ない。今までのあらすじを小声で言って聞かせる。
 みるみる変わっていく表情。
 内容からして真っ赤になり、最後に呆れた顔に変わっていた。
「よく、そんなの思いつくよねえ?」
 光の溜息。
「だって、つまんなかったんだもん」
「だもん、じゃねえ!」
 ギロリと睨んでいる航。もしや、命の危険性あり?
「もう……。航が本気にするでしょう? そういうこと言わないでくれるかな、啓介君」
「はーい」
 呆れ声に笑顔が混じる。そして、ふふっと笑い、航の耳元で囁いた声が俺にも聞こえてしまった。

『でも、まあ……。それも一理あるかな? 今度、変わろうか?』

 航の表情がササ〜ッと青くなったのは言うまでもない。

SS No15(2003/10/07)


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