■トップページに戻る■■NOVEL TOP■

one day

「あ、また、増えてるーっ!」
 ただいま、航の部屋の掃除中。
 なかなか物を捨てない人で、机の中がいろんな物でごちゃごちゃしてるんだよね。 部屋自体はすっきりなのに、本当に意外だよ。 小さいところに押し込むのが好きなのかな、とも思う。
 兎に角細かいものが多くて、マーカーとかペンとか……。もうインクがないんじゃない? っていうものもあったりするんだ。 いつも捨てなよーって言うんだけど、気がつくと元に戻ってるんだよね。 だから時期を見計らって、僕がいつも整理してるんだ。
「別に増えてはいない」
 スーパーの袋に使えそうも無いガラクタをポイポイ投げ入れてると、 当たり前のように、いつもの返事が返ってくる。
「増えてる! だってこのマーカー、もう色が出ないからこっちのを買ったんでしょう?  それならこれは捨てるの。もう使えないんだから。 新しいのがある分、どんどん増えてるってこと、わかんないかなあ……、もう!」
 別にいいじゃん、と一向に気にしない人に言っても無駄なんだよねえ……。
「だって、綺麗になってないと嫌なの!」
「だから光が片付けてくれてるんだろ? それはお前の楽しみでもあり、俺の楽しみでもある」
「何言ってるんだよ。片付けが楽しいわけないのに」
 ほんと、わけわかんないよ。
 ブツブツ言いながら、それでも手も動かした。
 ベッドの上でうつ伏せになり雑誌を読んでいた航、それを閉じて、ころころ転がるとベッドの端に座り、こっちを見ている。
「じゃあ、俺だけの楽しみだ。光がここにいてくれるのが嬉しいだけなんだけど、な」
 そんなこと、真面目な顔で言うから……
 なんて答えていいか詰まってしまった。ただ、顔が熱くなっていくのだけはわかる。
「顔、赤いぞ」
「し、知ってるよ!」
 あはは、と楽しそうに笑う。だから横目で睨んでやったんだけど、小さく肩を竦める仕草に、思わず僕も笑ってしまった。 やっぱり航と居るときが一番楽しい。早く片付けよう。それから、ギュッてしてもらうんだ。
 きっと、今の僕は、とても楽しそうに片付けてるに違いないね。だって鼻歌だって出てきそうなくらいうきうきしてるんだもの。
「航〜。これ、何が入ってるの?」
 大きな抽斗を引っ張ったときに、どーんと現れたのが、四角いお菓子の缶。周りがテープで止まってる。
 これって今まで見たことがない箱だけど。いつの間にって感じだよ?
「ん? それ写真。おやじの部屋から出てきたやつ、持ってきたんだ。開けていいぞ」
 テープをはがし、開けると、中には写真の束が詰まっていた。 写真が趣味の航の父さんは、旅行先には必ずと言っていいほど一眼レフを持って出かけてるんじゃないかな。 被写体として選ぶのは風景が多くて、賞を貰うぐらいの腕前なんだ。 すごく綺麗で、僕の部屋にも可愛い花のアップや、霞がかった幻想的な山の写真が飾ってある。
 反対に、うちの父さんはビデオ派で。だから、同じ場所に行っても、写真とビデオが同時に出来上がる。二度美味しい、かな。
「これちゃんとアルバムに貼ればいいのに」
「面倒なんだろ? 大雑把なおふくろだからな」
「じゃあ、僕がやってあげるよ」
 一枚一枚、捲っていく。
「ほとんど、お前んちにあるのと同じじゃねえ? 大体、いつも一緒に行動してんだからさ」
 言われてみれば、ほとんどの写真に僕と航が写っていた。 しかも見覚えがあるものばっかり。 航がおじいちゃんのうちに行く時だって、僕も一緒に行ってたぐらいだものね。
「ほんとだね」
 笑えてくる。
「あ、これみて。ライオン、今もいるのかなあ?」
 それは、動物園で撮ったもので、僕と航がソフトクリームを手に、ライオンと書かれた檻の前で笑顔で写っていた。
 その時のことが鮮やかに蘇る。あんまり思い出したくないんですけど。
「これさ、間抜けだよな。ライオンって書いてなきゃどこの檻かわかんねえだろ? 撮るなら、ライオン入れてくれっつーの」
 そうだよね……
 確かにライオンはいたんだよ、いたんだけど、近寄ってくるのが怖くて大泣きしたんだ、僕。
「お前がギャーギャー泣くから、ライオンとの3ショットが無くなったわけだ」
「だって、怖かったんだもん」
 航が僕の頭をツンツンと指で突付いて笑う。
 その後、泣きながら他の動物を見て回って、でも、やっぱり記念だからと、何故か看板の前で写真を撮る事にして。 その頃には写真でも分かるとおり、アイスを買ってもらって機嫌がすっかり良くなっていた。
「それにしても思いっきりの笑顔だな……」
 僕から写真を取り上げ、目の前に掲げて、苦笑いしてる。
「ほんとだね。可愛い〜。航」
「なーんも考えてなかったからだろう? このすぐ後だろうな。夢を見始めたのは……」
 慎之介の記憶が戻り始めた頃。今思い出すと、それからあまり笑わなくなったような気がする。 だけど、この写真は、本当に弾けるような笑顔で。
「これ、今度、啓介君に見せてあげようかな」
 だって、こんなに可愛いんだよ? 誰かに自慢したいじゃない、僕の大切な彼氏。
 それなのに、『げっ!』 と彼らしくないあからさまに嫌な顔をした。僕の言うことに今までそんな顔したことないのに。
「やめてくれ! これ以上、あいつに変なネタ、提供しないでくれよ」
「ネタって……。あだ名、教えたこと? それとも、バスで酔っちゃうから遠足の時はいつも一番前だったこと? うーん、幼稚園バスの階段から足を踏み外して、頭にコブ作ったこと、かな?」
「光……。それ全部言ったのか? 奴に……、奴に!?」 
 なんか拳を握り締めて、かなり声にも力が入ってるんですけど。航、怖いよ。
「う、うん。航がどんな子供だったのか、興味ありそうだったから……。こんなに強かったんだよー、って話のついでに……」
 あはは。
「う!」
 頭を抱えてる。そんなに困ることだったの?
「絶対、何か考えてる……。お前のおかげで、俺の株は大暴落だ……」
「何言ってるんだよ、航。変なの〜。ふふ」
「ふふふ、じゃねえ。笑ってる場合か! あいつにおちょくられるのがいっちばん腹が立つんだよ! それなら猿に馬鹿にされた方がまだマシだね」
 猿と比較するとは。そんなに嫌だったんだね。悪いことしちゃったなあ……。
「そ、そんなに。ごめんね、航。たいしたことじゃないと思ったんだよ。だって、今の航は誰よりもカッコいいもの」
 もちろん、カッコいいのところを強調して、言った。
 ねえ、機嫌直してよ。
 願いが通じたのか、フッと笑って、
「謝る?」
「うん。ごめんね」
「もう、余計な事言わない?」
「言わないよ」
「キスしてくれたら許す」
 ちゅってキスする。
「ねえ、今度行こうか、ライオン見に」
「ああ……。それより……」
 背中に回る腕の強さが増してくる。
 部屋の掃除がまだ終わってないし、アルバムも作りたいし。
 けど、今はそれよりも優先事項がありそうだ、ね。

SS No16(2003/10/30)


■トップページに戻る■■NOVEL TOP■
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送