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蒼い瞳のサンタ〜ある日のふたり


「たーかーのっ、何してるの?」
「サンタの写真集」
 週末になると家に泊まるのが習慣となった日吉が俺の手元を覗き込む。
「あ、空! かわいいね〜」
 今、やってるのはアルバム作り。デジカメで撮った猫写真をPCに移し変えてるわけ。
 PCデスクの前に陣取った俺の首に細い腕を巻きつけ、頬に顔をくっつけてくる。 シャンプーのいい香りで集中できないじゃねえか。
「ああ、もう。邪魔すんなよ。もうすぐ終わるんだから」
 俺の言葉に機嫌を損ねたのか、ふんっと腕を振り解き、
「空、おいで〜」
 興味が猫に移っていく。
『にゃ』
 日吉が呼ぶとなぜか犬のように走ってくる真っ白の猫。
 足元にじゃれつく猫を抱き上げ、ふわふわの毛のかたまりに頬を寄せる。
「今ね、高野がアルバム作ってるんだって。かわいい写真ばっかりだよ」
 猫に話しかけるのは普通の光景。それも極上の微笑みつきだ。
 動物なんて飼ったことのなかった俺にとって、猫に話しかけるっていうのは信じられなかったけど、 今じゃ、俺も何気に話しかけてるんだもんな。
 慣れって恐ろしい……。
 しかも会話が成り立ってるように感じるんだから、相当、ヤバイ。 そのうち「なんでちゅか〜」なんて赤ちゃん言葉になるんだろうか。
 それは避けたい……よな。

 数か月分の写真を日付順に並べ、ひとつひとつにコメントを入れていく。
 かなりの手間がかかってる猫アルバムの完成までもう少しだ。つくづく俺ってマメだと思う。
「出来たぞ!」
「わーい、見せて見せて」
 俺の声に合わせて、日吉が猫を抱いたまま走りよってきた。
 腕の中の白いかたまりを、そのままデスクの上に置くと、ちゃんとスクリーンの方向を向いて座っている。
「お前も俺の力作に興味ありか?!」
 こいつ猫のわりには、かなり頭がいい……と思ったら、ただスクリーン上を動くポインターが気に入ってるだけだった。 俺が動かすポインターに合わせて猫パンチをお見舞いさせてやがる。
「……なわけねえよな! サンタ! 邪魔。せっかくの作品が見えねえだろ?」
「ほら、空。ちょっとどいててね」
 抱き上げ足元に下ろすと、そのまま「ふにゃ」とかなんとか不平を言いながら、ソファの方へダッシュして行く。
 弾丸……。そんな奴はほっておいて、その後、ふたりでゆっくり鑑賞タイム。
 ひとつひとつの思い出にコメントを挟む柔らかい声が耳元をくすぐる。
「よく出来てるね。でも」
「何かご不満でも?」
「アルバムのタイトルは、これじゃない方がいいなあ」
「まんまでいいじゃねえか。『サンタ 最強!』」
「最強って……」
 日吉が嫌そうな顔をする。ナンバーワンの俺的解釈。ついでにサンタに敬意を表してるゾという意味も込めてるんだけどな。
「君、とことん変だよ。理系頭はこれだから……。普通に『空 No.1』とか『空〜T』でいいじゃないか。アルバムが増えていったらどうすんのさ。 そのうち最弱になっちゃう」
「もう! いいんだってば、これで。増えたら増えたでまた考えるんだから。なあ、サンタ?!」
 ふたつの名前を持つ猫は、俺たちの些細な言い合いなどお構いなしで走り回っている。

「ところで……俺の努力は認めてくれないわけ?」
「じゃあ。目、瞑って?」
「サンタのキスはいらねえぞ。釘を刺しておかないとな。目が笑ってる。俺が見逃すとでも思ってんの?」
 肩を竦め、日吉の顔が近づいてくる。触れる直前で目を閉じた。
 降りてきたのはいつもの柔らかい唇。何度キスしても飽きることのない甘い味。
 もっと深く味わいたい、そう思った時、突然唇が離れていった。
「続きはちゃんとタイトルを直してからね」
 やっぱり。結局、俺って日吉の掌で転がされるわけね……。

2003/04/08


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