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蒼い瞳のサンタ〜ある日のふたり2
いつも! いつも! いつも! 「いーーーーっつも、そうだ!」 「なあに? どうしたの?」 俺の視線の先にはソファの上に座ってる日吉。 突然の俺の切れ具合にやや困惑気味の表情が浮かんだ。 それでもその手は休まることなく、膝の上の白い塊を撫でている。 そこにいるのが不機嫌の原因、俺と日吉の猫、サンタだ。 「ねえ、どうしたのさ。そんなに黙り込んで。空が何かやったの?」 「独り占めしてる」 「は?」 今度は不思議そうな色をその瞳に加えて。きっと今の日吉の頭の中は、俺の言葉で埋め尽くされてるに違いない。 しばらくすると、「ああ」と何かに思い当たったようににっこり笑った。 「キミも空を抱きたいの? いいよ、こっちおいでよ。ホラ、空。高野を構ってあげて」 いつものように猫に向かって話しかけている。しかも考えた挙句の結論がそれかよ?! 的外れもいいところだ。まったく天然なんだか計算なんだかわからないところがコイツの怖いところだと思う。 「違ーうっ。しかも構ってあげて、とはなんだよ! 俺は猫以下か!」 俺はキッチンに向かうと、サンタから日吉を奪還すべく最も効果的な方法をとった。 おやつ作戦だ。 おやつといってもただのドライフード。基本的にはこれを朝晩食べているけど、たまの贅沢として缶詰もあげたりする。 猫も自分の飯の音はしっかりと頭の中にインプットされてるようで、この袋をかしゃかしゃさせると、すっとんでくるわけ。 「サンターっ。おやつやるぞ〜」 でもそれで黙ってないのが日吉で。時間外にいろんなものをやるのを怒るんだ。 案の定、今だって……。 「あーっ、駄目だってば。ちゃんと決めた時間にあげてよ。デブ猫になったらどうするのさ」 ソファの上から睨んでいた。 「それはそれで可愛いんじゃねえ? な、お前だって食べたいもんな?」 飛んできたサンタが俺の足元に体を摺り寄せて、おねだりモードに入ってる。 「高野が見せるから欲しがるんだよ。太るといろんな病気になったりするんだからね」 それを言われちゃ、俺の手も止まる。サンタに病気になんてなってもらいたくねえもん。 呼んだわりにはいつまでもフードの袋を持ったままの俺に、さすがに言いすぎだと思ったのか、仕方ないねという風に彼が折れた。 袋から十粒くらい出して猫用の皿に入れると、カリカリといい音をさせて食べている。 とても美味そうにはみえない茶色の粒。こんなものの中に栄養が詰まってると思うと不思議だよね。 本当は野生動物みたいに生の鳥とか食べたいと思ってんのかな。 この小さな脳みそで毎日、何を考えてんだろうか。 「今日の夕飯は缶詰開けてやるからな」 しゃがみこんでサンタの頭を撫でた。 「高野〜」 顔を上げると日吉が手をひらひらさせて呼んでいる。 「そこ座って」 三人がけソファの一人分を空けた位置を指差し、早く座って、と同じ言葉を繰り返す。その瞳は何か思いついた時のもので、妙に輝いていた。 こういう時は反論してもこじれるだけだとわかっている。 エッチ禁止令が発令される恐れがあるから。情けない話だがそれはとても困るのだ。 「なんだよ」 俺は日吉の隣に座った。すると身体を押され、やはり人一人分の隙間が。 「そこだって言っただろ?」 あーっもうっ! 折角、人が素直に従ってるっていうのに。無性にいらいらしてきた。 「なんだってんだよ。どこに座ろうと俺の勝手だろ?!」 声を荒げる俺に対して、それでもその表情から微笑みが消えない。 「隣じゃ駄目だから」 そういうと、手を引かれて。 「え?」 倒れこんだ俺の頭の下には日吉の腿があり……。 これって膝枕だよな、だよな? 下から見る日吉の表情が穏やかで、俺はこの顔に騙されるんだ。 いらいらだって怒りだって長続きしない。直ぐに解消されちまう。その指が髪を弄ぶのが気持ちよくて、瞳を閉じた。 「さっき空がここにいたから機嫌悪かった? 猫に嫉妬?」 正確に読まれ、言葉にされると恥ずかしくなる。 余計、目を開けられなくなったじゃねえか。赤くなった顔を見られないように横を向いた。 だって考えられないだろう? 猫に嫉妬なんて。 だけど聞いてみたいと思ったんだ。安心できる言葉が欲しいから。 だから世の中の恋人達が一度は相手にするだろう質問をする。いや、愚問か。 「俺とサンタ、どっちが好き?」 「うーーん」 少し考えて、って考えることなのか? 「たかの?」 小首を傾げながら語尾を上げた。 「疑問系ってどういうことだよ。しかもその間は何!」 あんまりの答えに、恥ずかしさも吹っ飛んだよ。 俺、猫に負けてる。 ガックリきた俺に、 「どっちを好きって聞かれたら困るね。キミのことはアイシテルから…・・・」 ふふふって楽しそうに笑って。 いらずらっぽい笑顔。俺を惑わすいろんな表情。だからお前から離れられない。 「なあ、キスして」 また瞳を閉じて、キスを待つ。この状態でキスはきついだろうけど、足を組んで高さを調節して。 頭を抱え込まれ、瞼の裏が暗くなったと思ったら唇に柔らかいものが触れた。 『好きだよ、キミのことが誰よりも好き……』 小さな囁きを唇に感じて、キスはより深いものへと変わった。 SS No4(2003/04/23) |
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