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蒼い瞳のサンタ〜ある日のふたり4


 最近の高野は膝枕がお気に入りらしい。
 空が膝にいると、必ずひょいって抱き上げて、空用のベッドの方へ移してしまうんだ。 今日もボクがソファにいると早速やって来て、当然のように頭を乗せた。
「ボクの膝はキミ専用じゃないんだけど……」
「でもサンタ専用でもないだろ?」
「キミは毎日空と一緒だろう? でもボクは週に一回か二回しかいられないんだよ?」
「俺だって……お前と!」
 言いかけて、後を続けないまま、身体を起こした。
 ほらね、すぐにそうやってムキになる。
 三年になって高野は理系クラス、ボクは文系だから、同じクラスだった時より共有する時間は少なくなった。 高野が言いたい事は多分この事。
 わかっているのに、ついその反応を試したくなる。それがボクの楽しみのひとつだから。 キミの中をボクで満たしていたい。 どれだけ想われてるのか確認したくなるんだ。 だからほんのちょっとだけ、いじわるしたり、我侭言ったりしてみたくなる。
 これがボクの愛情表現。
 ずるいよね。
 でもいつも確認していないと、不安なんだよ。

 いつもなら、ボクの軽口のひとつなんか軽く交わすのに、今日の高野はちょっと変だ。 少しだけ鼓動が早くなった。ねえ、どうしたの?
「たかの?」
「なあ、日吉。お前、俺の名前、ちゃんと知ってる?」
 俯いたままの高野が意外な言葉を口にした。
「高野だろ?」
「そうじゃなくて。俺のフルネーム言えるのかってこと」
「高野は高野。それでいいじゃない?」
 以前は高野クンって呼んでた。それが付き合うようになってから、高野になって。

 視線を落としたままの端整な横顔を見つめていると、小さく口が動いた。
「名前で呼んで欲しい……んだけど」
 苗字で呼んでるものを急に名前に変えるのって恥ずかしいし。
 だけど、照れたように言うキミの言葉がボクに教えてくれる。キミの隣にいてもいいんだと。
 だから。
「気が向いたらね」
 自分でも分かるくらい楽しげな口調だと思う。それが伝わったのか、勢いよくこっちを向いた。
「今! すぐに! ここで!」 
 その顔はさっきの深刻な表情とは別人で、笑いを堪えるのが大変だよ。
「今はねぇ。言わない」
 それからぎゅっと口を紡ぐと、『言え言え』ってヘッドロックかけられた。ボクは高野みたいに頑丈じゃないから、苦しいんですけど。 バタバタしてたら、急に腕を解かれて、目の前にあるのは真剣な顔。
「じゃあ、今は一度だけ」
「タカノヒロシ」
 棒読みで言ったら、小さな溜息を零された。そんな表情されたら……。切なくて、胸が痛いよ。
「そんな悲しい顔しないで。ごめんね。……ヒロ?」
 自分より一回り大きい身体を、腕を伸ばして包み込んだ。されるがままの高野をぎゅって抱きしめる。 ごめんね、少しやりすぎました。

 ほんとはね、いつも呼んでるんだよ。キミの事、『ヒロ』って。
 いつかこの名前が自分の心に馴染んだら、今度こそちゃんと呼んであげるから。
 だからそれまでは『高野』で我慢して欲しい。

SS No7(2003/05/14)


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