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蒼い瞳のサンタ〜ある日のふたり6


 ボクの悩み。
 それは高野がどんどん猫バカになっていくこと……。
 子供の頃から猫が好きだったボクと比べて、 ここ一年で猫好きになった彼は、その加速の度合いが半端じゃないんだ。
 そもそもたかだか一年と十数年が一緒って。いや、むしろ、負けてるかもしれない。うん、負けてる。そんな気がした。
 ハマっている。
 そんな言葉が似合うほど、空と遊ぶのが好きらしい。
 今日だって、一週間ぶりに彼のところに来たのに……。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「なあ、日吉。見てみてろよ。サンタ、芸が出来るようになったんだぞ」
 ボクが食べたシュークリームの空き袋をクルクルと小さく丸めて、
「ほらっ! サンタ、取ってこーーいっ!!」
 ポーンと放った。
 フローリングに、爪の音を響かせて。
 リビングからキッチン方面に走る、空。
 カシャカシャと小さな口に咥え、戻ってきて、高野の座り込んでいる足元にポトリと落とした。
「すげーーーっ。な、な、な、な! 犬みたいだろ? すげーよ、こいつ。もう可愛い〜〜〜っ!!」
 悶えつつ。
 空を抱き上げて、ぎゅっと抱きしめた。
「よし、もう一回。ほら、行くぞ〜!」
 これを延々と……。
 ね、疲れるっしょ?
 でも空は、まだ飽きてないみたい。
 トトト〜ッ、と軽やかに走っていた。
 そして口に咥えて、戻ってくる。
 またポトリ。
 その度に、高野は、それがまるで初めてかのように感動し、ボクを見た。
「可愛いぞ、サンタ。ほら、次だ」
 どっちが早く飽きるのか、それを考えながらぼうっと一人と一匹のやりとりを眺めていた。
 それでも、なかなか終わらない遊び。
 空にとっても、高野にとっても、楽しいらしい。
「賢いよな。お前、ほんとに猫か?!」
「猫だよ……。ついでに言うと、『取って来い』 をする猫はそれほど珍しくもないんだよ? よくテレビでも出てるじゃない?」
「お! テレビか! お前も出れるかもな! よし、稼いでくれ」
「だから、そうじゃなくて……。それほど珍しくもないと言ってるの」
 我ながら、呆れ声だと思う。
 だけど、そんな声を出させる高野が悪いんだ。
 つまらない。
 今まではボクの方が空を構っている時間の方が多かった。
 高野もこんな気持ちだったのかな。
 それを思うと、なんだか悲しくなってしまった。
 空は、好き。
 それなのに、今、空ばっかり、とか思ってる。
 馬鹿みたい。
 ボクは、猫に嫉妬してるんだ……。
「ボク、帰る」
「日吉君は、拗ねてるのかな?」
 ソファを立ち上がったところで、高野もラグから立ち上がった。
 前を塞ぐように、目の前に立たれると威圧感がある。
 ボクみたいに貧弱じゃないから。
「そんな言い方、やめて」
 睨んで、横を通り過ぎようとした。
「帰るなよ」
 今日、はじめて抱きしめられた。
 そうされると。
 身体から力が抜けてしまう。
 全てを委ねたいと思ってしまう。
 肩口に頬を預けて、温もりを感じながら、
「やだよ」
 それでも口から出るのは、そんな言葉ばかり。
 素直じゃないな、と自分でわかっている。
 でも、高野はわかってくれてるよね?
「ばぁか。帰すかよ?」
 囁くような声に、胸が高鳴った。
 どうしようかな。
 帰るって言っちゃったよ?
 そんな時、空が、ボクの足元に身体を擦り付けて、抱っこしてというように伸び上がった。
 にゃ、と空独特の短い発音で小さく鳴いて。
 帰らないで。
 そんな風に、言っているように聞こえた。
 誰がなんと言おうと、そう見えたし、聞こえたんだ。
「空……。帰らないよ……。ごめんね」
 白いカタマリを抱き上げて、鼻に鼻先をそっとくっつけた。
 ごめんね、空……。
 ボク、いらいらしてたね。 
「まだ、ここにいることにするから」
 彼に告げると、苦笑する高野。
「俺が帰らないで、っていうより効果ありなのかよ。ふざけてるよな」
 だけど、とても瞳が優しいから。
 笑いかければ、きっと笑い返してくれるから。
「嬉しいでしょう? ボクが帰らなくて」
 にっこり笑ったら。
「はい、嬉しいです」
 ほら。
 見惚れるほどの、温かな笑顔で、やっぱり、笑ってくれた。
 いいや。
 高野がどんなに猫バカになっても……。
 それ以上に、ボクに夢中にすればいいんだものね。

SS No21(2004/03/22)


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