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真実はそこにある
真実はそこにある 〜 はじめに 〜 これはスペシャル部屋にアップしてある『幸せの行き先』の日常風景となっております。 ノベルページの登場人物ではないので、簡単なあらすじを書き添えました。 高校生の悟は、偶然宝石店の営業の相川と知り合いになった。 時折見せる、偽の笑顔の下に隠された優しい素顔に惹かれ、 忘れようと努力するも存在が日増しに大きくなっていく。 そんな中、彼の婚約者の出現、家族の事故、社会的地位の差などに苦しめられ…。 絶望の悟が望んだのは自らの死。 数々の困難に見舞われながらも、心を通わせ幸せを掴んだ二人の物語です。 〜 data 〜 相川博行(あいかわ ひろゆき) 二十四才 宝石店勤務営業。ホスト系の美形。嘘くさい笑顔が武器 桐山悟(きりやま さとる) 十七才 普通の高校生。元陸上部。足には自信あり。 |
『今日は外食にしましょう』 授業が終わり夕方の帰宅時間、相川さんからメールが届いた。 そしてその十分後、 『急な仕事が入ったので、キャンセルです。あ、相手はちゃんとした男だからね。念の為』 にこにこして操作しているあの人の顔が浮かぶ。宥めるような口調も。 「ばーか」 我ながら嬉しそうな声だ。言った後で慌てて周りを見回した。 ドタキャンなんてしょっちゅうだから別に気にならない。 むしろ夕飯を考える必要がないから楽だなあ、なんて。 『わかった』とだけ返事を入れて、暇な時間を友人達と過ごすことに決めた。 「あ?」 ブラブラとしていた時、大通りの向こう側、人ごみの中にあの人を見つけた。だけど声を掛ける事が出来ない。 だって一人じゃないから。 肉感的な女性と並んで歩いている。遠目に見ても目立つ、男なら思わず目がいっちゃうようなすごい胸の女。 相川さんは、しなだれかかるようにした彼女の腕を解くこともせず、させたいようにさせているようだった。 少し先を歩いた彼女がくるっと振り返り、相川さんの顔に自分の顔を近づけた。 笑ってる? 楽しそうな声が届いてきそうなほどいい雰囲気だった。すれ違う人が振り返ってみるほどに。 オレは携帯の受信記録を見た。さっき届いたメール。そこには男だと書いてある。 「ウソツキ……」 そんな言葉が漏れた。 彼女と過ごすことが仕事なのだろうか。 宝石を扱う商売柄、女性といることは多いだろう。 だけど時間外にあんなに楽しそうな光景を見せられて、デートじゃないと誰が言える? 試しに、 「なあ、あの二人、どう見える?」 友人に聞いた。 「へぇ。いい男にデカイ胸の女。どう見てもデートだろ? ありゃ身体目当てだな。何? 知り合い?」 「いや……目についたから」 ふうん、と気の無い素振りで行こうと言われた。 嫉妬するのはみっともないと思う。愛してるの言葉が嘘だとは信じたくない。 帰ったら聞いてみようか? あの人が誰なのか。本当に仕事だったのか。だけど……。 詮索するような自分に嫌気がさして、メールを入れた。 『今日は来るな』 と。せめて一日、頭が冷えるまで。 わからない嘘なら許せる。それなら、わかる嘘は何回までなら許せるのだろう。 帰ってきてからずっと自分に問いかけていた。 オレは……? 何回まで? 嘘の度合いにもよる? じゃあ、こういう場合は? なんとか納得いく答えを得ようと思考がぐるぐる回る。 それが中断されたのは、目下の悩みの種である相川さんの陽気な声だった。 「ただいまー」 夜中近く、にこやかな笑顔でリビングに入ってくるなり、ソファにいるオレの隣に座り横からぎゅっと抱きしめられた。 飲んでいるのか酒の匂いがプンプンする。 帰ってきたのはきっとオレの為。 かつて、大事な家族を一気に失い、自分自身をも消してしまいたいと自棄になっていた不安定な心。 今でも一人になると怖くて震えがおさまらなくなる時がある。 そんな時いつでも彼は傍にいてくれた。黙って温もりを与えてくれて。 だけど今は、その優しさが腹立たしかった。ほっといてくれ、そんな気持ちだった。 「メールしたはずだ。来るなって!」 「俺の帰る場所はここなの」 「ここはオレのうち! アンタの家は超豪華マンションだろ。とっとと帰れ! 二度と来るな、バカ!」 手に触ったクッションを投げつけた。これじゃ女のヒステリーだ。わかってるけど、喋れば喋るほどどんどん頭に来て、悪循環に陥ってしまう。 キツイほどに香る香水の匂いで、オレの不機嫌さは頂点に達しようとしていた。 ムカツクムカツクムカツク!!! 「何怒ってるの?」 「帰れ」 「嫌だね」 「帰れってば! なんでだよ。ほっといてくれよっ!」 声を荒げたオレに静かに言う。 「俺が帰ったら君は泣くだろ? 真っ暗な部屋の中で一人ぼっちになって。 俺はね、そういうのは嫌なんだよ。理由を言えよ」 黙りこんだオレの肩が掴まれ正面を向かされた。 「悟!」 本気で怒っているのか竦み上がるような怖い瞳でオレを見ている。 一通り怒った後は哀しいという感情に支配される。 溢れそうになる涙と漏れそうになる嗚咽を堪える為に、ぎゅっと唇をかみ締めた。 「何でそうなんだ! 大事な事は口を噤んでしまうんだな。言わなきゃわからないだろう?!」 だって口を開いたら一緒に我侭な感情まで流れてしまう。 『捨てないで』『ひとりにしないで』 自分だけが大切な独りよがりの感情。 でも理由を聞くまでは絶対に離さない、と彼の眼が言っていた。だからやっとのことで一言だけ搾り出す。 「嘘、ついた」 「嘘なんて言ってない」 「男の人って言ったじゃないか! 見たんだから。女の人と歩いてるとこ。 キスしそうなくらい顔が近くにあっても、抱きつかれても……嬉しそうに笑ってた……」 だんだんと声が小さくなっていく。言い終わった後で涙が出た。 そんな情けない状態のオレでも、突き放さないでくれて。 引き寄せられて背中をポンポンって、まるで子供をあやすみたいに。 優しい響を帯びた声が耳に届く。 「なんだ見てたんだ。じゃあ、ちゃんとわかるよね? 俺はそんなに近くにある顔にキスしてた? 抱きつかれた身体を抱き返してた?」 「それは……。そ…そんなのわかんないよ! 遠くだったし。胸に目がいってたし……」 思い返してみる。ただ笑っていただけだったかもしれない……。 「俺が楽しそうに笑ってたのかさえわからないったことだろ?」 「でも! みんな振り返ってた。お似合いだからだ……」 それ以上は言いたくない。自分が落ち込むだけだってわかっている。 彼の溜息が頭の上から聞こえて、 「あのね、あれは俺の大学の友人で、ほんとに男なの。所謂ニューハーフさん。 近くで見るとわりとゴツイよ。皆が振り返ってたのは『だから』だろ」 呆れたような声にかわった。 「常連で装飾品はうちで買ってくれるんだよ。今日は彼のお店で飲んでたの。もちろん回りはみーーんなそういう方ばかりです」 「ほんとに?」 「嘘言ってどうする?」 居心地が悪くなって逃げ出そうとした俺の腕が取られた。 ちょっと待った、と笑いを含んだ声で。 「ねえ。疑いは晴れたよねぇ。無実の罪を着せられた俺の立場は? しかも胸に目がいってたんだよね。 悟君はやっぱり女の人がいいのかな?」 「えーーーっと……」 困った……。とりあえず、へへと笑ってみる。 「謝罪と弁解の言葉はゆっくり聞くから。あっちでね」 あっちと視線を流した先には寝室がある。まだ言葉は続いて。 「でもね……」 『許さないよ』 熱い息とともに囁かれた。それがとても甘く聞こえるのはなぜだろう。 背中がゾクっとした。 口の端をあげてニヤリと笑う相川さんに自分から懺悔のキスを送る。 許さなくていいよ。 どんな罰も受けてあげるから。 2003.06.19 |
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