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いつも一緒に〜甘々な生活


 今日は土曜日。週末の約束事、和人の家に来ている。
 寝るまでは家族一緒にいることが多い霧生家での生活。 だけど今日は両親が一泊旅行に行ってるから子供達だけの留守番となった。 そこで心配なのは真琴のこと。 和人とオレは離れの家で寝起きするから、真琴ひとりで家に残ることになる。 だから今日ぐらいは一緒に、と思ったんだけど、 その話しを聞いた環が泊まりに来ることになって、すっかり『お泊り会』状態。 真琴も環が一緒で安心なのか、はしゃぎまわっている。 親不在の広い家っていうのは、真琴にとっても、環にとってもちょっとした冒険の気分なんだろうな。

 今日はこれから買い物に出かける予定。何故かって、夕食担当がオレだから。といっても、決して得意なわけでも趣味なわけでもない。 だって親元でそんなことする必要もないしね。
 でも、昨日の学校帰りに「何か取ればいいじゃない?」なんて言うから、ついつい「オレが作る」って勢いづいちまって。 その時の和人の顔が凄く嬉しそうで、ひっこみがつかなくなって、そういうことになったわけ。 なんかいつも乗せられてる気がするのは気のせいなのか?

 和人を迎えに階段を上っていく。たしか、布団干しをしてたはず。
 部屋を覗き込んで窓の外、ベランダの手すりにひっかけた布団に顔をくっつけてまどろんでる恋人を見つけた。
「和人、買い物行くから!」
 オレの声に閉じていた目を開けると、その顔に微笑みが浮かび、手でオレを呼ぶ。
「ポカポカで気持ちいいよ」
 また目を閉じる。
「おい、寝るなよ?!」
 しかも立ったままで。 でもほんとに気持ちよさそうで、オレもやってみたくなった。 ベランダにおいてあるサンダルをつっかけ和人の隣に立ち、手すりに凭れかかる。 そのまま布団に頬をくっつけるとほんとに暖かい。ふかふかで日向の匂いがした。
「気持ちいいな」
 すぐ横にある和人の顔。じっと見ていると長い睫毛がゆっくり上がる様子がよくわかった。 茶色の瞳に映る自分。ふふと口元を緩める表情もスローモーションのように映っていた。 呟くような言葉が耳に心地いい。
「言った通りでしょ?」
 キスしたい。すごーく、キスしたいと思った。なんの魔法なんだろう。 彼と一線を越えてから、和人のことが好きで愛しくてしょうがない。 この想いを伝えたくて、微笑んだままの唇に唇を重ねた。
「最近、理央くん変わったよね。『して』って言わなくてもキスしてくれるし、抱きしめても『やめろ』って言わなくなった。 そんな変化は大歓迎! ついでにもっと『愛してる』とか『好き』とか言ってくれるといいんだけどなあ」
 冗談めかして言う言葉も流せなかった。本心だとわかるから。ゆらゆら揺れる瞳がそう告げている。
「好き……」
 小さく呟いた言葉も聞き逃さなかったのだろう。すぐに笑顔が広がった。
「理央、好き」
 引き寄せられぎゅっと抱きしめられた。和人も日向の匂いがする。瞳を閉じるとすぐに唇に温かな感触。 だんだん激しくなりかけた時、
「理央ちゃーん、にいちゃまーっ、お買い物行こうよぉー」
 バタバタと階段を上がってくる音に、中断せざるを得なかったオレたちは顔を見合わせて苦笑した。



「どこまで行く? 駅前のスーパーでいいの?」
「売れてるとこがいいよ。その方が新鮮だろ?」
 こういうところは父親の影響だと思う。父さんは流通関係のコンサルティングしてるから、 はっきり言ってスーパーの品物にうるさい。
 減農薬とか無農薬とか、とにかく産地こだわり派。細かく言うと産地でも「○○さん栽培」というような 栽培者の顔がわかるとより良いらしい。
 父親曰く、『安ければいいわけじゃなくて、安心して食べられるものじゃないといけない』んだと。 実際、父さんの手がけてるスーパーは、そういう点で支持されてるんだけど、 そういう店がいたるところにあるわけじゃないから、せめて回転の良さそうな所を目安にするしかないんだよなあ。
 そんなわけでオレ達は流行ってそうな大手スーパーに行くことにした。
「理央くん、何作るの?」
 カートを押すオレの後を和人とちび達が付いて来る。
「ビーフシチューとサラダ。そのくらいしか作れない」
 あとは煮物と漬物を母さんが持っていけって、タッパーに詰めてくれたからそれでいいだろう。
「何でもいいよ。僕、嫌いなものないし」
 オレは好き嫌いが激しいからこういう時困る。魚も肉も食べられるものは限られている。 刺身系は苦手だし、肉の内臓系も駄目。
 それを考えたら憂鬱になった。だって、一緒に生活したら、和人に同じものばっかり食べさせることになるだろ?  少し克服しないといけないよなあ。

 対面式の肉屋で牛肉を買おうと立ち止まり後ろを振り返ると、いるはずの人間がいない。 自分の世界に浸ってる間に、オレは一人で進んでいたようだ。
「れ? 和人?」
 やや後方が妙に騒がしい。嫌な予感がした。ヤツラがやらかしてるに違いない。 オレは急いで来た方向にカートを押して戻っていった。
 そして見たのはがっくりくる光景。
「いやあ、おにいちゃん。いい男だねえー。それにこの子たちもなんて可愛いんだろう。ほら、こっちも味見していってよ」
 差し出されたウインナーを持ち、「美味しいですねえ」と笑顔を振りまくのはオレの知り合いじゃないぞ。 恥ずかしい奴め。
 しかもその人だかりは何なんだ?!
「おばちゃん、すごく美味しいよ、これ」
 その途端、きゃー可愛い〜と悲鳴のような声があがった。
 真琴お前までも……。
「理央にいちゃん、呼んでくる」
 環がオレを探してきょろきょろしている。 逃げようとした後ろ姿を見つけたのか、「あ、いたーっ」と叫ぶ声が耳に痛い。
 恐る恐る振り向くと、環の手にあるウインナー付き楊枝に指し示されていた。 環の声とウインナーが指す方向に皆の視線が移動する。 その先にいるのはもちろんオレなわけで。一躍、注目の人となっていた。
「ほお〜〜っ!」 ハモって聞こえた。
 その『ほお〜〜っ』ていうのは何なのですか、皆さん?

 この状況で笑顔を絶やさない和人を睨みつけると、ピリピリした雰囲気を読み取ったのか、真琴と環を引き連れてもどってきた。
「恥ずかしい真似すんじゃねーよ、まったく」
「断ったんだけど、手に持たされちゃって。食べたら意外と美味しかったよ」
 和人の後姿を見ていた試食係りのおばちゃんの声が聞こえてきた。あの声のでかさなら店内中に響いてるのは間違いないだろう。
『あのおにいさんも美味しいと絶賛でしたよーっ。さあ、どうぞ買ってってー!』
 その一言で『わーっ』と歓声があがり、周りの人の手が伸びていた。そしてそのウインナーが飛ぶように売れたのは、霧生兄弟効果だと信じている。

「お前達、夕食抜き。試食で腹を満たしてこい。折角、オレの手料理だっていうのに」
「やだよぉ。ぼく、理央ちゃんのご飯食べたいもん。ごめんなさい」
 涙目の真琴につられて環も項垂れた。もちろん和人もだ。そこまであからさまに反省されると、居心地が悪いんだよ。
「さ、早く買い物すませような。サラダは母さん直伝だぞ。水菜と油揚げのサラダ。ノリのトッピング付きだ。 ドレッシングに拘りがあって、あるメーカーじゃなきゃいけないんだ。ここにあるのかなあ。それがないと困る」
 その言葉に真琴と環がオレの手を繋ぎ歩き出す。残されたカートは和人がちょっと不満そうに押してきた。
 オレの手が塞がってるのが悔しい?
 前に真面目な顔で言われたことがある。
 例え弟だろうと近所の子供であろうと、この手が誰かと繋がっているのが和人には嫌なのだそうだ。
『その手のぬくもりを僕以外の人に与えないで』と。
 でも、和人だってさっき嬉しそうな顔してたじゃないか。周りを囲まれて円の中心で。
「ねえ、理央くん。僕の視線の先にはいつも君がいるんだよ」
 ボソッと後ろから言われた言葉に眼を瞠った。
 その後に続くのはきっとこの言葉。「だからいつも笑顔なんだよ」と。
 たとえそれでも……。
 わかっていてもオレは嫉妬するだろう。自分と家族以外の人間に向ける和人の微笑みに。
「でも嫌だから」
 前を向いたまま答える。
「じゃあ、僕の望みは?」
「その分、上乗せして後で返してあげる」
 顔だけ振り向き、小声で囁く。
「じゃあ、今だけその手を真琴と環くんに貸してあげてもいいよ」
 二人の頭を撫でる表情が嬉しそうで、オレの心も暖かくなっていく。
 だから……。
 お返しに、いつもこの人が好きだといってくれる笑顔をあげる。

SS No5(2003/04/28)


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