いつも一緒に〜七夕飾り

『土曜日、七夕しようよ』
 週末を間近に控えたある日、途中まで一緒に帰りながら思いついたように和人が言った。七日は平日だから、オレが来られないからって。
『飾りつけ、みんなでやろうね!』
 七夕って具体的に何するんだろう? いまいち、メジャーになりきれない行事だと思う。
 別に興味もないけれど、和人が楽しそうにあれこれ言い始めたから、それでもいいかと頷いていた。



「理央くん、届いたよ」
「デケェ!」
 和人がリビングに持ってきたのは七夕用の竹で、霧生家に入ってる庭師さんが用立ててくれたらしい。 天井に届きそうなほどの背丈で、青々とした葉が茂った立派なものだった。
 気合入ってるって感じ。笹に……。
「たくさん飾れるね」
「真琴たち、帰ってきたらびっくりするな」
 急遽することになった七夕まつり。
 環と真琴は浴衣を着ることになって、それぞれの家に戻っている。一時間もしたら帰ってくるだろう。 飾りつけは、その後にしようということになっていた。子供の一番の楽しみだろうし。
 窓の近くに竹をセットする和人をソファに座って眺めている。
 日差しが柔らかい。適度に涼しくて、サワサワサワと葉の擦れる音が耳に心地いい。
 自然の音に眠気を誘われ、ふぁーっと欠伸が出た。
「眠そう……。ダメだよ?」
 苦笑気味に、すかさず釘を刺され、
「ふぁい」
 涙目になりながらもなんとか堪える。会話がないと、寝てしまいそう。
「理央くん?」
「んぁ?」
 クスクスと笑いながら、今寝たら夜寝かせないよ〜?、と声がして思わず吹き出した。
「眠い要素満載なんだけど……。頑張って起きてマス」
 無理やり眠気を遠ざける為、ソファから立ち上がり大きく伸びをする。座ってるから眠くなるんだよな。 竹の支えを作っている和人の手伝いに向かう。手で押さえると、微笑みで応えてくれた。
「七夕なんて小学校以来かも」
「うちは毎年してるよ?」
「真琴がいるからな……」
 普通、高校生にもなってやらないだろ? しかも男だし。
 でも。
 よくよく考えてみたら、今も男四人で喜々としてやろうとしてて。それを楽しい、なんて感じてもいる。
「……はい、準備完了」
「うん。いい感じだ」
 笑みに笑みを返した。穏やかだと思う。
 だから、矛盾だらけでも構わない。
 ひとりじゃないから。和人が、一緒だから。
 結局はそこに落ち着いてしまうんだ。
「あ! オレ、持ってきたものあるんだった。これ使って」
 ソファに置いたままの紙袋を掴み、ひとつ取り出した。
 彼の手に渡る、願い事を書く短冊。
「綺麗だね」
 厚紙にカラフル模様の千代紙をはり、その中央に文字がかけるように白い紙をまた貼り付けたという凝ったものだ。
 実は、母さんの手作り。七夕をするって言ったら張り切りだして。折り紙は買うわ、短冊は作るわで、昨日は大騒ぎだった。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「ただいま〜〜」
 ちび達が戻ってきたらしい。玄関を開けると同時に声がして、タタタ、と走る音が続いた。
 リビングへと通じるドアを開けるなり、すごいすごいと飛び跳ねて、はしゃぎまくっている。
 正統派、紺色の浴衣の真琴と、前衛的、黄色の浴衣の環。個性に合わせて、といったところだろう。 よく似合っていた。それにしても、そのはしゃぎようじゃ、グズグズになるのも時間の問題のような気がする。
「よーし、飾るものを作るか!」
 オレの号令に、一斉に返事をしてテーブルを囲んで座り込む。
 ちび達がハサミで怪我をしないように注意するのは和人に任せ、とりあえず輪っかをいくつも繋げてみた。一応、配色にも気を配ったつもり。これって定番ぽくねえ?  クリスマスだとなんとなく飾るものって思いつくけれど、七夕ってやっぱりピンとこないわけで。そこで登場のカラフルリング。なんにでも応用できる無難な線だと思う。 誕生会みたいだけどな……。
 みんな自分の作業に没頭中で。
 オレが二メートル近いリングを完成させた時、環の誇らしげな声がした。
「できたっ! 理央にいちゃん、見て見て!」
 真琴も頬を紅潮させて、
「ぼくも〜」
 手を挙げた。
 環の前には、色とりどりの紙ヒコウキ。
 なぜに紙ヒコウキ?
 真琴の前には、これまた、色とりどりの鶴。
 なぜに鶴?
「もっといっぱい作っとこ!! たまきくん、これも使っていいからね」
 ハイ、と少なくなった環の分を補充していた。
 七夕飾りってこんなんだっけか?
 でも、まあ、可愛らしい……よな。
 静かな和人が気になって、テーブルの影に隠れている手元を覗き込んだ。
 !!!!!
 そこに行儀よく並べられているのは、吹流しやカゴのほか、犬とか猫とか鳥や兜まで。
「お前は折り紙職人かよ!!?」
 こんな芸を持っていたとは!
 スゴスギル!!
「こんなものでいいかな……。理央くんにも教えてあげようか?」
 キラキラした瞳で言う。
「いらね。もう充分だろ。飾るところなくなっちまう」
 四人合わせて、かなりの量だ。
「じゃあ、今度は願い事を書こうか」
 紙袋を逆さにすると、短冊がバサバサと落ちてきた。中には書き込んであるのもある。
『理央や和人君、みんなが幸せでありますように 恵子ママ』 と、 『家内安全、商売繁盛 史朗ちゃん』 明らかに母さんの字だった。
 いつの間に……。
 それに気づいた和人が「恵子さんらしい」 と笑う。
「確かに母さんらしいかもしれない……」
 ちょっと溜息。子供より子供っぽいってどうなのよ? ま、いいけど。
「お父さんやお母さんにも書いてもらおうね」
 ひとつずつを真琴と環に渡した和人。残りの山からひとつに手が伸びる。
「僕、これにするよ」
 彼が持っているのは、オレが作った、たったひとつの短冊だった。
 母さんの横で見よう見まねで作ったもの。
 ノリの付け過ぎで少し皺が寄って、お世辞にも良い出来とは言いがたい代物だけれど。 台紙に選んだのは、彼の好きなペパーミントグリーン。きっと、そこに気づいてくれたのだろう。
「願いが叶う気がするから」
 彼がにこっと笑う。
 何もかも見透かされてる。照れ隠しにペンを押し付けた。
「早く書けよ、飾るんだから」
「うん」
 和人が書き始める。
 それを確認して、オレも自分の分を書くことにした。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

 さーさの葉、サ〜ラサラ〜〜……。

 真琴と環の声が重なり、この部屋を満たしている。

「願い、叶うかな……」
「さあな……」

 窓からはいる初夏の風。
 サラサラと涼やかな音を立てて、笹が揺れる。
 こうして時を感じるのもいい。
 来年も、再来年も、これから先、いつまでもこんなふうに。

――さかあがりが、出来るようになりたいです 真琴

――かっこいい男になりたい(もくひょう=和人にいちゃんか、理央にいちゃん) 環

――理央くんがずっと僕のものでありますように 和人

――バーカ、ずっと一緒だって言ってんだろ! 理央

 いろとりどりの飾りが華やかで。
 短冊が裏を向いたり表を向いたり、風に押されてなびいていた。

SS No29(2004/07/01)


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