NGワード(後)

 抱きしめられた。
 覆うものは何もなく、隔てるものも何もない。念願の肌の触れ合い。
 言葉はなかったけれど、いつもより早めの鼓動が心を伝えてくるようで、背中に手を回して。
 頬に頬をくっつけた。
「好きだよ」
 オレはやっぱり想いを伝えたい。
 音にして、言葉にして教えてあげたい。
「忍を愛してるから」
 ギュッと強くなる腕の力。
「響……」
 唇が重なる。貪るように舌を絡ませあった。激しく求め合って。離した時には銀の糸が互いの口もとを繋いでいた。
 息が乱れて苦しい。
 だけど。
「しーちゃん、愛してる」
 何度でも言うよ?
 頬に感じる忍の両手。大切なものを扱うようにふんわりと包み込まれた。
 穏やかな瞳の色。口元を緩めた柔らかな笑みがあまりにも綺麗で、見惚れてしまう。
「どうした?」
「……綺麗だなーって思って」
「それは光栄」
 恭しく触れるだけのキスをされた。
 ゆっくりと身体を倒される。また焦らされるのかと思ってたけどそんなこともなく、唇は首筋から鎖骨へと移動していく。 そのまま胸の敏感な部分を舌が突付いた。 丸く嘗め回され軽く噛まれて、思わず声が出る。
「んっ」
 執拗に攻められるそこ。反対側を爪で引っかくように弾かれて、意思とは無関係に身体が跳ねた。
 忍のすること全てが欲望を駆り立てていく。
「感じてる」
 耳元に注がれる彼の声にさえも。
「貴方だから、っ……、!」
 燻り続けた身体が再燃するのは早くて、オレのモノは既に張り詰めているだろう。 透明な雫を零しながら。見なくてもわかる。
 片手がわき腹を這う。上下にいったりきたりのもどかしい動きに腰が浮いた。
 触って欲しい。
 扱き上げて欲しい。
「、して」
「こう?」
 大きな手で包まれて、上下に扱く。時々捻りを加えながら。
「もっと」
 敏感な部分から溢れ出る液体を絡みつかせ、丸く塗り広げるように動く指。その度にくちゅくちゅと響き、僅かに残る理性を侵していく。
「は、……ぁ、んっ」
 耳を塞ぎたくなるような恥ずかしい音なのに、気持ちよくて。
 待ちに待った快感。
 蕩けそうなほど、気持ちいい。
 刺激直撃って感じ。
「明日も学校だろう? そうしたら最後までは無理か……」
 突然、現実に戻ってしまった。
 そして思い出す。リアル社会。ヤバイ。こんなことしてる暇はなかったかもしれない。流されてたよ、オレ。
「わかんないとこ、聞きに来たんだった……。後で教えてくれないと困る」
 忍が苦笑した。
「了解……」
 忍がついててくれるから、これで安心。
 そうと決まれば……。
 起き上がって、向かい合うように座った。
「しーちゃんのしてあげる。口がいい?」
 彼のもしてあげよう。
 熱くなっているものを握りこむと、困ったように笑ったのがわかった。
「いや遠慮しておく。また噛まれるの嫌だから」
「あ、あれは……。忍がオレに手出してくるからだろ!」
 前に口でしてあげた時、忍がいろいろ触ってくるから我慢できなくなって、喘いだ拍子に歯を立ててしまったというわけで……。
 懲りたらしい。
「それに、どうせまた途中でギブだろう?」
 それには。ヘラッと笑って返した。
 オレ快感に弱いし。
 自分のことで精一杯になる可能性ありだもんな……。
「その時はごめんなさい」
 仕方ないと瞳が笑う。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「んんっ」
 キスし合って、手の動きが早くなった。くちゅくちゅと二人分の湿った音が部屋に満ちる。
 胸の尖りを、舌先や指で舐められ、潰され、捏ねられ。 熱い吐息がかけられて、それだけでイきそうになってしまう。 腕の付け根にチクリと感じる痛み、それさえ快感だった。
 いつも以上に感じてるかも。
「ンッ」
「いいよ、ただ感じて。声、聞かせて」
 掠れた言葉に震えが走る。
「しの……ッ、ぁ」
 抑えろと言われても無理。いくら自分の身体でも、既にコントロールがきかないから。押し出されるように響くのは恥ずかしいほどのオレの声。
「響……。色気ありすぎだ……。ヤベエ、可愛い」
 顔中にキスが降ってきて。
「あ、あぁ――ッ、は、……、ンッ、あ……」
 喘ぎが忍の口の中に吸い込まれた。
 激しい口づけ。貪られて、息苦しくて。でも求められることが嬉しい。幸せな苦しさだと思う。
 目を瞑って、ただ身体が受ける刺激だけを追った。
 痺れていく。全てが。
 高みに上げられていく。
「ん、くっ、――、んっ、」
 案の定、オレの手は途中から休みっぱなしになった。それでも最後は一緒に行きたくて。
「お前は誰にも渡さないから……」
「しの、しの!」
 再び潤みはじめた目の前には、いつも傍にいてくれる大事な人がいて。同じように弾んでいる呼吸。オレの視線に合わせて微笑んでくれた。
 大好き……。
 彼に抱きついたまま委ねて。
「ア――ッ」
 身体に力が入って、訪れる開放感。一直線にのぼりつめた。



 結局、それだけじゃ終わらずに夜通し愛し合うことになってしまった。喘ぎつづけてボロボロになって。
 そして朝だ。
 学校だ。
 行きたくねえ……。
「もう! しーちゃん、しないって言ったじゃん!」
 パンを頬張りながら、キッチンに届くように文句を言ってみた。
 セックスしないなんて言っておいてこれだもんな〜。
 少し嬉しかったりするけど、そのせいでまた寝不足。おまけに腫れぼったい目をしている。 変な顔……。
「変な顔になっちゃうし」
 冷たいタオルを持ってきてくれた忍、オレの目の上にポンと置いた。
「野獣しのぶ……」
「……ゴメン」
 あれ?
 謝られちゃったよ。
 調子狂うなあ……。
「ん。いや、いいんだけど、さ……。許すから! 許すぞ!!」
 半分以上自分のせいであることはわかっている。誘ってたのも実はオレ。 でもせっかく謝ってくれてるから偉そうに胸を逸らせた。
「最後、ゴムが足りなくて中出ししちまったもんな……。ちゃんと買っておくから」
「っ反省点はそこじゃ、ねーだろっ!」
 勢いで目の上のタオルが落ちた。拾い上げて、テーブルに置く。
 最近、一日一突っ込みがオレのノルマとなっているようだ。
 ……が、涼しい顔の忍。
「コーヒー、お代わりいるか?」
 いつも通りの会話に笑いが込み上げてくる。
「……いいや。そろそろ行くよ。着替えなきゃいけないし」
 ちゅっと軽くキスをして玄関に向かった。
 ドアを開ける前に。
「行って来ます」
 腕組みして壁に寄りかかり穏やかな笑みを浮かべている人に向けて、二本の指で敬礼を送る。
 彼がフッと俯いて、その後、
「いってらっしゃい」
 蕩けそうな微笑をくれた。 

 そんな笑顔を見せられたら、身体のダルさも痛さも吹っ飛んでしまった。
 天気も良好。
 さて、と。
 行くか〜!
 青々とした空の下、歩き出した。

SS No31(2004/07/08)
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