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野々村くんの憂鬱
体育館に向かっていた時のこと。 おれの前を行く響と佐藤、伊藤、加藤――まとめて三藤――が話しに夢中になっていた。 彼らが盛り上がってるのは昨日のテレビ番組。歌番組に出ていたアイドルがかわいいという話しだ。 それぞれがお気に入りの名前を出しては、けなしたり頷きあったり。よくある光景だと思う。 おれは、というとあんまりアイドルって好きじゃないから積極的には話しには加わらずに数歩離れた後ろを歩いている。 すると突然前を歩いていた響が振り、そのまま立ち止まった。 待っているみたいに。 一呼吸遅れぐらいで、おれが響の隣に並ぶとそのまま何事もなかったかのように並んで歩き続ける。無駄のない自然な動作に、つい頬が緩んでしまった。 落ち着きが出てきたっていうか。前だったらきっとバタバタ走ってたに違いないのに。 三藤たちはそんな響の様子も気にすることもなく先を進んでいた。 「どした?」 「ところでさあ、どんな人が好きなわけ?」 少し言い難そうな小さめの声。何を言い出すかと思えば……。 「何言ってんだよ、急に」 「だって、彼女作らないだろ?」 「この人っていう人が現れないから」 おれだって、全然女の子から相手にされないわけじゃない。 バレンタインだってそれなりにチョコは貰うし、普通の日だってラブレターとかアプローチはあるし。ただ、どうも『特別』とは思えないんだよな。 こんなに間近に劇的な恋に落ちちゃった本人がいるから、普通の恋愛がバカらしくみえてくるのかもしれない。 「じゃあ、どういう人が好みなんだよ」 覗き込むように聞いてくる。自分が幸せだからおれにもその幸せをわけてあげたい、そう思ってる目だね。 でも好みを聞いてどうするんだよ。おまえが誰か紹介してくれるわけ? そりゃあ、彼女が欲しくないわけじゃないけど。 目の前でドラマみたいな恋愛を見せられちゃ、慌てて変なのも掴みたくないっていうのもあるし。 「美人で頭が良くて、ちょっと意地悪そうに見えても実は優しい人。人のことは興味ないけど恋人のことは目の中に入れても痛くない、猫かわいがりタイプがいいかな」 じっとおれを見ていた響。 「忍はあげないよ」 真顔はやめろよ。冗談に決まってるだろ? しかも男じゃねぇか。 「ほお。あの人って優しいんだ? 冷たそうに見えるけど」 ほんとはおれにだってわかってるんだ。宮前さんがどんなに響のことを想っているかなんて。呼ぶ声、表情、会話の端々に表れてるんだから。 でもあんまり響が素直な反応を返すから意地悪してみたくなるんだ。 「その恋人さんは、響くんをすごく大切にしてくれるタイプなんですねぇ」 真っ赤になって俯いて。ふっと面をあげたその表情が、今まで見たことないようなすごくいい顔で。 いろんな事を乗り越えてきてる分、結びつきが深いんだよね。 想って想われてっていうのが伝わってくるような柔らかな表情で。 えへへと恥ずかしそうに笑う響が別人みたいに思えた。 中学の時から知ってる響は、おれにとって歴とした男で。そういう目で見たことはない。その彼が宮前さんと付き合ってて。 身体の関係があるのは想像がつく。今までは考えないようにしてたけど、考え始めると駄目だった。 どんどん考えがエスカレートして……。 どんな風に囁きあうのだろう。抱きしめる感触は? どんな表情で……。 「あっ! あぁぁぁぁぁっ!!」 響の声がおれを現実に引き戻す。次の瞬間、おれは叫び声に振り向いた三藤達の大爆笑に包み込まれた。 「野々村、鼻血出てるよ!」 「のぼせてるねえ」 「発情しちゃってるわけ?」 「何考えてたか教えろよ」 腹を抱えて笑うヤツラが「青春バンザイ!!」 と、好き勝手なことをほざいてやがる。 それにしても、いまいち爆笑の意味が掴めないんだけど。 しかも響が鼻血とか言ってるし……。 あ?! え?! おおぉぉぉぉ! おれってぇぇぇぇぇ! 袖口で鼻を拭くと、ジャージに嫌な染み。 言える訳ねえだろ! 原因が響だなんて! 「うわっ! おれ、今日の体育パスな。保健室行ってきまーす」 ジャージの色がエンジでよかったよ。今日この時だけはこのダサダサジャージの色に感謝した。一年だったらグリーンだもんな。目立つこと請け合い。 おれは保健室めがけて、一目散に駆け出した。 サボリ決定のおれは授業終了の五分前に教室に戻り、携帯を取り出した。 もちろん相手は、不本意なサボリ原因の片割れだ。すばやく本文を打つ。 まったくおれってば。 響を見て鼻血を出したなんて情けないし、ちょっと自分が許せない。どっぷり自己嫌悪につかってます。 だから責任はおまえに取ってもらうからな。せめてもの報復。 片眉をピッとあげてる宮前さんの顔が浮かんできた。今度逢う時は覚悟しといた方がいいぞ。 きっとすごい夜になるんだろうなあ。 それを考えたらまた。 健全な高校生には刺激が強すぎる……。 おれも早く彼女作ったほうがいいかなあ。 送信ボタンを押すと液晶上を飛行機が飛んでいく。 『響のあられもない姿に鼻血が止まりません』 送信完了。 SS No2(2003/04/15) |
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