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「あれ? 今、起きたの? もう昼……」
 オレがマンションにに行くと、起きたばかりなのか、梨佳ねえがシルクパジャマにガウンというリラックスしまくりの格好でコーヒーを飲んでいた。
「あら、ひーちゃん。久しぶりね」
 確かに梨佳ねえの言葉どおり、ココに来るのも久しぶりなんだ。 期末試験だったからね。さすがに遊んでるわけにはいかないわけで。 それも今日で終わり。無事、最終日を迎えたのだ。
「朝日を見ながら帰ってきたのよ。まったくお肌に悪いわよね」
 うふふ、と笑う梨佳ねえはすごく綺麗で、全然肌の調子を気にすることなんかないのに。
「梨佳ねえはいつも綺麗だよ」
 ありがと、と子供みたいににっこりと笑う梨佳ねえは、可愛らしいなあ、と思う。
「ほんとだってば。綺麗だし、可愛いよ」
「いい子ね。だから響のこと、好きよ」
 お世辞とでもとったのだろうか?
 ちゃんとした本音なのにな。
 子ども扱いだから仕方ないのかもしれないけどね。
 だから、それ以上は言わずに、オレも笑って応えた。
「あ、ひーちゃん……」
 言いかけて、ウキウキした様子で自分の部屋に入り、小さなカゴを手にして戻ってきた。
「ほら、これどう?」
 かごの中身は、入浴剤。
 これが最近の梨佳ねえのブームなのだ。……、オレにとっても、なんだけどね。
「うわ、いろんなのあるね」
 四センチ角ぐらいのパッケージで、それぞれが違う香りの入浴剤。ラベンダーやカモミール、ミントなどのハーブ系や、ゆず、レモンなどの柑橘系、 バラや桜などいろんな種類があった。
「オレ、ハーブ系がいいかな。さっぱりしそうじゃん」
「そう? 私のお気に入りは……、これ」
 梨佳ねえが手にしたのは白いバラのパッケージのもの。高貴な感じかな。
「あ、梨佳ねえ、今からお風呂はいる? オレ、お湯はってこようか?」
「そうね、のんびり入って疲れをとってこようかしら」
「どれ入れる?」
 梨佳ねえが選んだのは、かりん。渋……。
「わーった」
 風呂場へと向かい湯を入れる。たまったところで、入浴剤投入〜。途端に、浴室に甘い香りが広がった。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

 梨佳ねえが風呂に入ってる間、テレビを見ていた。
 玄関が開く気配に、ソファを立つ。
「おかえ、り? しーちゃん、どうしたの?」
「ああ」
 オレの言葉に顔をあげたその人は、ずぶぬれ状態だった。 服は濡れ、髪からは水滴がしたたり落ちている。黒髪がより一層濃い黒になってて。こんな時でもすごく格好よくて、思わず見惚れてしまった。
 水も滴るいい男っつーのは、忍のことだと断言するぞ!
 ……なんていってる場合ではない。
 本人、気持ち悪そう。そりゃ、そうだ。
「急に降り出しやがった」
 そういえば、天気予報。雨になります、だった気がする。でも夕方って言ってなかったかな。
「駅で傘買えばよかったのに」
「面倒」
 だからってそんなにびしょぬれで帰ってこなくても……。
 それなら少し止むまで待ってるとか、さあ。
 なんにしても、面倒という言葉以外に違う言葉が出るとも思えないからそれ以上は言わないことにした。
「タオル」
「あ、ごめん」
 パタパタと戻り、タオルを持ってくる。
 忍がくしゃくしゃと頭を拭き、靴を脱いだ。
「服も脱いだ方がいいよ。風邪ひいちゃう。あ、今、梨佳ねえがお風呂入ってるから、その後に入れば?」
「そうだな」
 手がオレの頭をポンポンと叩く。その手を取った。冷たいよ。
 こんなに冷たいと、心まで冷えていきそうで悲しくなる。
 暖めてあげたくて握りこんだ。
「お前の手はあったかい。子供体温だから」
 ふっと笑う、瞳が優しくて。だから、オレも、えへへと笑った。
「梨佳ねえ、出たかな。見てくる」
 早くあっためてあげなくちゃ。
 忍が風邪でもひいたら大変だ。もちろん看病ならするけど、さ。病気なんてしないに越したことは無い。
 リビングに行くと、髪をピンクのタオルでターバンのように巻き、身体をバスタオルで覆うというセクシーな格好をした梨佳ねえが、冷蔵庫から出したウーロン茶を腰に手を当て一気飲みしていた。
「しーちゃん、帰ってきたの?」
 ぐびぐびと喉に流し込み、プハァ、と男らしい飲み方をした妖艶な美女が、にっこりと微笑みを浮かべてオレを見る。
 いつもながらそのギャップに驚かされるというか……、なんというか。
「そんな格好でうろうろすんな」
 オレが何か言う前に、リビングに入ってきた忍が眉を顰める。
「あら、忍さん。お姉さまの裸を見ようなんて、百万年早くってよ」
「百億光年先からでも見たくねえな」
 すたすたと自分の部屋に行ってしまった。
 張り合いのない弟に、べーっと舌を出し、その後、何故か矛先がオレに向けられ……。
 その姿のまま近づいてこられて目の前に立たれる。
 上気した肌、ほんわりと鼻を刺激するのはカリンの甘い香りだ。
 オレは視線をどこに向けていいのか、わからなくて、ずーーっと梨佳ねえの眼を見つめていた。
 だって油断したら、胸の谷間っていうの?
 そこに行きそうだし……。
 心の葛藤を読んだのか、梨佳ねえの瞳が面白そうにキラキラ光り、指がオレの頬をすーっと撫でた。
「ひゃっ!」
 反射的に出た声に、梨佳ねえが笑う。
「まあ、失礼ね。普通は女性が声をあげるものでしょう? 響が怯えてどうするのよ」
 頭を小突かれオレも笑うしかない状況で、
「いや、嫌ってことじゃなくって……。ただ、ほら、びっくりっていうか。こういうの慣れてないし。忍しか、オレには……」
 もごもごもご……。
 梨佳ねえに抱きしめられる、とかそういうのは今までもあるんだけど、裸同然の格好でこんな近くにっていうのは、やっぱり恥ずかしい。
 カーーッと顔が火照ってくる。
「ちょっと子供には刺激が強すぎたわね。ひーちゃんの困ってる顔、お姉さん、好きよ。可愛いもの……。さあて、と。出かける用意して。お仕事お仕事〜」
 そこにいるのは、すっかりいつもの梨佳ねえだ。
 大人の女って怖い……。
 本気で迫られたら、オレ、泣くかも。
 吸ったままだった息を、はぁーっと吐き出した。
 なんか、緊張したな……。
 だからって、梨佳ねえのこと、見る目が変わるかといったらそんなこともないけど。これには自信があるぞ。だって忍の姉さんだから。
 ちょっとドキドキしてしまった心を落ち着かせる為に、恋人の部屋に向かう。
 そっとドアを開け、濡れた姿のままパソコンを操作している人に背中から抱きついた。
 一瞬びっくりしたように眼を見開いて、だけど、
「しーちゃん」
 甘えたように名前を呼ぶと、目元が綻ぶ。
「キス、したい」
「お前まで濡れるぞ」
 そんなこと言っても、知ってるよ。貴方は拒絶なんてしないよね?
「いーよ、一緒に風呂はいるから」
 望みのままに、ぎゅって抱きしめてくれて。
 オレの心は、やっとあるべきところに落ち着いたみたいに穏やかになった。

SS No18(2003/11/26)


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