年明け

 一緒に初詣に行った。
 三が日だと混むから少し日にちをずらして、近所の神社まで。
 天気のせいか、それとも日が経ったせいか、人は少なく活気がない。
 それはそれで寂しいんじゃないかと心配したのだが、悠人は気にしていないようだ。
 神社にいる鶏を触っては「縁起が良さそう」と無邪気に笑い、おみくじをひいては「吉」と喜んでいた。
「颯は?」
 広げる手元を一緒に悠人が覗き込む。
「末吉」
 なんだか複雑。
 もっと大吉とか大凶とか、どっちかに振れてくれっつーの。
 もそもそと口にした俺に、
「あ、勝っちゃった」
 そんな風に嬉しそうに笑顔を深くするから、この神社で良かったと思ってしまった。
 末吉でよかった。
 有難う、神様。
 そういう俺って意外と単純かもしれない。

 賽銭を投げて願い事もした、お揃いのお守りを買った……。
 あとはなんだろう。
 やり残したことはもうないよな……?
 その時、ヒューと音を立てながら風が吹き、木がザワザワと煩く揺れた。
 空を見上げれば、一面ぶ厚い白い雲に覆われている。 強めの風が寒さに拍車をかけ、身を、吐息までも凍らせるようで。 この冷たい空気が「今まさに雪を降らせます」って感じだ。
 悠人に視線を流すと寒いのだろう、首を竦めて縮こまっている。
 早く帰ろう。
 この華奢な恋人は身体があまり強くないから、すぐ風邪をひいてしまうんだ。年明け早々具合が悪くなられても困るしな。
 ジャリジャリとじゃりを踏みしめる音を響かせながら参道を歩いていると、赤いノボリが目に入った。 
「甘酒飲む?」
 暖かそうな湯気が誘っている。
 昼を食べてから出てきたから腹はすいてないけれど、飲み物なら。
 飲めば少しは暖まるだろう。
「ううん」
 悠人が俺を見上げて首を横に振った。
 だからひとつだけ買うことにした。

「颯と甘酒ってなんか合わない。それにソレ、小さいよ」
 持った途端、寒さを吹き飛ばすような綺麗な笑顔。
 おたま一杯分の甘酒の入った小さなカップを手にした俺は、悠人のツボをうまく突いたらしい。
「あったまるから、ひとくち」
 口元を緩めたままの悠人に渡すと、少しだけ口をつけてすぐに俺に返してくる。
「あったかいけど粒粒があんまり好きじゃないんだ」
「俺はわりと好き。量はいらないけどね。もういい?」
「うん」
 小さなカップだからそれほど入っているわけじゃない。残りを飲み干して、空いたカップを露天横のゴミ箱に捨てた。
「じゃあ帰ろうか。寒いから」
 悠人のマフラーを口元まで引き上げてやる。
「ありがと」
 くぐもった声に視線を合わせては目で笑いあう。そして手を繋いで歩いた。

 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜

「寒かった」
「寒かったね」
 今は暖房でほどよく暖まっている部屋で、入れたてのカフェオレのカップを両手で持ち、手の平を温める。
 そんな仕草を繰り返していた悠人が、
「コタツあるといいな……」
 フと思い立ったように呟いた。
 そういえば悠人の部屋にはコタツがあったっけ。
 勉強するにもテレビを見るにも、コタツに座ってするらしい。
 この人の生活には欠かせないものなのだろう。
「欲しい?」
「コタツってすごく落ち着くよ? きっと颯も落ち着くと思う」
 ほんわりと、そんな優しい表現がよく似合いそうな笑みを向けてくる。
 隣り合うソファの上。
 背中に手を回し、引き寄せた。
 悠人は手の中のコーヒーを零さないようにと慌ててたが、そんなのお構いなし。今は悠人を抱きしめることが先決だ。
「もう。零すだろ」
 口を尖らせる表情に、ごめんなさいと謝るとすぐに元通り。
 今度はカップを置いて、身体を摺り寄せてくる。
 それだけで充分に暖かい。暖房器具なんていらないぐらい。
 …、ってこれは心の話。
 降りそうだと思った雪が帰ると同時に降り出した。悠人が帰る頃には多少積っているかもしれない。
 こんな季節なのだから、現実はどう考えても寒いわけで、このリビングでも灯油ストーブが大活躍していた。
 床にはホットカーペットが敷いてある。ソファにいても床にいても暖かいことに変わりは無いはずなのだが、 悠人はここにもうひとつアイテムを加えたいと控えめな笑顔が告げていた。
 コタツはなあ。
 却下したい理由はいくつかある。
 第一に狭くなる。これは大きいだろう。ソファがある上に、コタツときたら。バランスも良くない。
 第二に収納問題。夏はコタツ布団をどこに仕舞えというのか。
「うーん。どうだろう。今でもそれほど困ってないんだよな」
 そう言うと悠人もすぐに諦めたようで「うん。そうだよね」 と小さく頷いてテレビに視線を戻す。
 でも、
 でも、その顔は悲しすぎるぞ、悠人。
「あ、なんでそういう顔するのかな……?」
 がっかりさせた罪の意識に苛まれる俺。
「え? 俺、なんか変?」
 慌ててまたこっちを見て。
 ………………。
 俺の言葉ひとつでころころと表情を変えるこの人が愛しい。
 思わず口元が綻んでしまう。
「変じゃないよ、ただ」
「ただ?」
 犯罪的にカワイイんだ、って言ったらきっと怒るから言わない。
 問いかける瞳に、焦らすようにサラサラの髪をかきあげる。
「悠人をがっかりさせちゃったな、って」
「ん? してない! がっかりなんてしてないから」
 一生懸命で、やっぱり可愛いな……。
「コタツはね、買わない」
「うん」
「だって悠人、ずっと中に入ってそうだから」
 目尻にキスをして、 
「もぐりこんで出てこなくなったら困るだろう?」
 額ににキスをすると、悠人がふふと笑った。
「俺、いつもそうだよ。自分ちで」
「ほらね」
 見つめあうと、自然と零れてしまう。
 笑顔。
「こんな日は特に。もしかしたら一緒に初詣にも行ってくれなかったかもしれない」
「それは無いよ」
 ふふふと笑うと俺の肩越しに顔をすりつけてくる。
 じゃれついてくる猫みたい。 
「それに脱がせるのが大変そうだし、」
 セーターを脱がせ、ソファに押し倒した。
 ジーンズに手を掛け、スラリとした形のいい足から邪魔なものを取り去る。
 大人しくされるがままの悠人。
 寒そうに丸くなる身体を抱きしめて、
「寒い時は俺が抱きしめてあげるから」
 唇をキスで塞いだ。
「んっ」
 何度か重ね合わせて離す。
 熱を帯びた瞳に艶やかな唇が緩やかに微笑んで、僅かな距離を埋めるように俺の背中に腕が回された。

 外は相変わらず雪が舞い、冷たい風が吹いているだろう。
 だけどここは別世界。
 ひたすら熱くなるだけの夜……。

SS No39(進捗にて 2005/01/07)

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