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刹那

 桜なんて特に興味がなかった。
 桜だけじゃない。
 緑の色、風の匂い、雨の温度……。
 過去は過去でしかなく、ただ前を向き、先を歩くしかない自分にとって、 季節を感じさせるもの全てがどうでもよかった。
「綺麗……」
 そう、お前が微笑むまでは。
「また来年も見に来ようよ」
 呟いて振り返った顔が、あまりにも鮮やかで。
 眩しくて。
 優しさに溢れていて。
 こんな時間を過ごすのもいいと思ってしまうのは、お前がそんな風に笑うから。

「時間が取れたらな……」
 そんな言葉にも、嬉しそうに。
「帰るぞ」
「あ、うん」
 もう一度だけと、その瞳に淡い色を焼き付けるように振り返り、歩き始めた俺の隣に並んだ。

 来年も、また、ここに来られるとは限らない。
 だけど、
 きっと、どこかの桜を見ている。
 この人とふたりで……。
 それは確かな未来。
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