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いつも一緒に


   シュッ
                       ダンッ!!


 周りから小さな歓声が上がる。

 二十年前から中高一貫教育を実施している私立扇学園では、文武両道を教育方針に掲げ、県内有数の進学校であると共に、部活動も総じて活発である。 特に弓道部は中学、高校とも県内随一の施設に恵まれ、全国大会に出場するほどの名門校であった。
 今日開かれているのは、県弓道大会。
 ここで優勝した者が全国大会への切符を手にするのだ。

「どうせヒロが優勝するんでしょ?」
 ふぁ〜〜眠い……と退屈そうにその試合を見ているのは、扇学園中等部三年、生徒会長を務めている霧生和人。
 もともと体を動かすのが好きな和人はサッカー部に所属し、弓道には全然と言っていいほど興味がない。そんな彼がどうしてこんな所でじっとしているかというと、親友である相模弘之に半ば脅迫的に応援に借り出されたのだ。
 いくら弓道部が優秀であっても、それが人気に繋がっていないのが、弓道部主将の相模の目下の悩みで。そこで、相模は考えたのだ(親友を使おう)と。

 祖母がイギリス人であるクォーターの和人。 中学三年で既に百八十に届こうかという身長、スラリと伸びたまっすぐな足、栗色のサラサラの髪に同じ色の瞳。 その血は東洋の血と混ざり合い、誰もが羨むほどのバランスの良さで受け継がれている。また、その表情は常に微笑みをたたえ、優しげな顔立ちをしていた。
 そして、その稀に見る美貌で扇学園入学時から文化祭において三年連続『ミス扇』に選ばれてしまった経歴の持ち主である。本人は甚だ不本意であろうとも、ほとんどの女子生徒までもが認めてしまっている事実。
 その和人が応援に来ると知れば、『活気溢れる大会になる筈』という相模の目論見はピタリと当り、観覧席に入りきらない人達も出るほど試合会場は今までにない熱気に包まれていた。



「部長、今日は凄い人ですねぇ」 相模に話しかけているのは、副部長の篠原。
「あいつ一人の威力は凄いな……」 観客席にいる和人の方に視線を投げると、それに気づいた和人が小さく手を上げた。
 その仕草にすかさず周りからキャーと声援が飛んでいる。それに『はぁー』と溜息を付きながら、
「……やっぱり今度は呼ぶのよそう。煩すぎるな。集中できない……」
 自分で計画しておきながら、早くも後悔している相模であった。だが優勝候補と目されている相模である、外野に煩わされる訳にはいかない。
「次、部長ですよ?! バシッと決めてきてくださいね」 ああ、と気持ちを切り替え射場に向かう。

 弓道は、的に当たるか否かで採点されるスポーツだ。真ん中でも端でも当たりは当たり。一回戦四射で二回以上的に当てた者が次に進む事が出来、決勝では、先に的を外した者が脱落していく『射詰め』によって優勝が決定される。
 案の定、相模を始めとする扇学園勢は強かった。決勝まで残った十人のうち、八人までが扇学園で占められていた。



「あれ? どうなったの試合?」 すっかり寝入っていた和人が、寝ぼけ眼で隣に座っている女の子に聞くと相模達は決勝に進んでいると言う。
(やっぱり……。もう帰ろうかな。まだ眠いし) どこでも寝られるのは和人の特技の一つである。
 決勝に出場する選手たちが射場に現れ、その中に相模の姿も見える。
(あ、ヒロだ。どうせ、また優勝だろう?)

その時 ───

   シュッ
                       ダンッ!!

 和人は、たった今、矢を放った人物に眼を奪われていた。眼も覚めるような衝撃。
 射場に入ってくる時には確かに気が付かなかった。
 矢を構え、放つ時とは印象が大分違う。
「ねぇ、あの子、誰?」 眼を離さずに、再び隣の人物に問いかけた。
「知らないわ。見たことないわね。初めての出場じゃないかしら?」 今までも何回か見に来たことあるけど、と首を捻っている。
「でも彼、二回戦までパーフェクトだったのよ。相模君の優勝の座も危ういかもよ」
「ふぅーん」
 いつの間にか、和人は今までのダランとした気の無い姿勢から、一転、前屈みになり組んだ両手の上に顎を乗せ、彼に視線を送り続けていた。
 背はそれほど高くない。百七十五ある相模と並ぶと一回り違うようだ。 姿勢良く凛と立つその姿は、白の上着、黒の袴が良く似合っている。
 袴姿でも華奢である事は見て取れた。

 一見、力強さとは無縁の存在。
 だが、張り詰めた空気が伝わってくるほど、彼からは集中力が感じられる。凄烈な空気を纏うその姿は、周りの者を巻き込みそうなくらい強烈だった。
 そして、遠目にも判る印象的な大きめの瞳。そこから放たれる鋭い光は的を一直線に射ていた。



 結局、相模楽勝かと思われたこの試合、優勝したのは全く無名の中学校の選手。
 表彰式の時、初めて名前を知った。

 清家理央(せいけりおう)。
 扇学園の隣の市にある市立厚川中学三年である。

「せいけ りおう……」

 これが理央との初めての出会いだった。


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