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いつも一緒に2

 先の弓道大会で優勝した理央は全国大会でも優秀な成績を収め、団体戦に出場した扇学園は見事連覇を成し遂げたのだった。

 あれから、六ヶ月。
 今も、理央の名は心の片隅に刻まれたまま。 それだけあの矢を放つ瞬間の印象は鮮烈で、忘れる事が出来ずにいる。

「もう一度逢いたい……」
 和人はいつしか、そう願うようになっていた。



 平成十四年私立扇学園入学式 ――
 花吹雪が舞う四月、高等部の入学式が午前中に行われる予定の中、 新入生約二百四十人が講堂に集まり、それぞれが十時の始まりを待っていた。
 そんな中、未だ到着しない人物がひとり。
 高等部になると、ほとんどが持ちあがりの為、外部入試はほとんど行われることはない。 だが、今年は二年ぶりに試験が行われ、若干名枠のところ百五十名以上の希望者が殺到したのだ。 その難関の入学試験をパスし、見事入学を果たした理央である。

「もうっ!!! なんだよ、この地図! もっと正確に書けっつーんだよ!」
 理央が手に持っているのは、入学式の案内。もともと父母宛てに送られて来たものだが、母は学園の位置を把握しており、必要ないとの事だった。 ならば……という事で理央が持って出たのである。理由は一つ。道に迷わず式開始前に到着する為。
 一度試験の時に来ているのだが、それでも迷ってしまうのは一種の特技に入るのかもしれない。
 入学する学生達はもう既に会場に着いているのだろう。
他に新入生らしき人物も見当たらないまま、三十分ほど同じ道をぐるぐる廻りやっと見覚えのある建物に辿り着いた。時計を見ると、開始までもう十分しかない。 (急げーーっ!) 列席する家族達の間を縫って、あたふたと駆け込んだ。

 普通入学式といったら緊張感の漂うものだろうが、皆、顔見知りのせいか、その場は想像以上に和やかな雰囲気である。
「誰か知ってるやついねーかな。相模はどこだ?」
 理央が知っていると言えば、弓道部の人間しかいない。その中でも相模とは全国大会の時も、それ以降もよく話しをする仲だ。 だがこの人数の中から一人二人を探し出すのは至難の業。 入り口付近で戸惑っていると、会場後方で立ち話している新入生達数人の中から振られている手が眼に入った。
(相模? 良かったー)
 ホッと一息つき、同じように手を振り返して側に行こうとした瞬間、相模の前に居た人物が振り返り、思わず立ち止まった。
(うわー、同じ日本人……イヤ、人間とは思えない!)
 見惚れるほど整った顔立ちをしていた。それなのに冷たい印象ではなく、暖かい表情で柔らかい雰囲気を纏っている。
(こんな人の隣にいたらどんな美人でも霞みそう)
視線を逸らす事が出来ずに魅入られたまま、相模達の元に近づいて行った。



「遅かったな、また迷ってたのか?」
 相模達の側までやってくると、開口一番指摘されたのはそれ。 相模には幾度となく迷いそうになるところを助けてもらっており、早くも弱みを握られている理央である。
「あの地図が簡単すぎるんだろ。迷いたくて迷ってんじゃねー。判るように出来てないのは地図って言わねーんだよ」
 膨れっ面で言い返している理央に、思わず和人の堪えていた笑いが漏れた。 突然頭の上から降ってきた笑い声に、理央が不機嫌な眼差しを向けると、優しげな表情が眼に入り自然と理央の表情も和らぎ。
「僕、霧生和人。よろしくね」
『握手』 と差し出された右手。 すっかり気勢を削がれた理央は、手を取ったところで、始まりのアナウンスがあり、早く席につくように促されたのだった。 足早に席へと向かう途中で、真後ろにいる和人に早口で名前だけ名乗り、席に着く。 それから間も無く校長の式辞が始まり、式は滞りなく進んでいった。


 約一時間後、無事に式が終了しそれぞれ講堂の外へと足を早める。外の掲示板には既に群れが出来ており、 人々の視線の先、そこには自分達が今後過ごすことになるクラスが張り出されていた。

 一年は三十人編成でAからHまで8クラスあり、その結果、和人はA組、相模はD組、理央はH組だった。
 このクラス決めは、もちろん成績は考慮されているが、Aだから優秀という訳ではなく均等に振り分けられているのだ。 それは特別なクラスを作らず、お互いに切磋琢磨し向上して行こうという学校側の意図である。

 早速、それぞれの教室に向かう。L字型に建てられている校舎は、D組が中間の角部分の教室にあり、AとHは端と端になる。
 そして、このクラス分けにより、日常生活においてほとんど接点がない和人と理央は、しばらく顔を合わせない日が続くのだった。


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