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いつも一緒に〜ケセラセラ1

 今日も和人は不必要なくらいに、笑顔を振りまいていた。
 何故かというと、それは今日が金曜日だから。両家合同の家族会議が開かれた時に決まったことがある。
『週末は外泊を認める』
 だから月曜日から用もないのに理央の教室に来ては、「週末が待ち遠しいね」を連発していたのだ。 そしてそのテンションの高さは日を追うごとに強くなり、とうとう明日という段になりピークに達してるようだった。 理央がキツイ調子で、人前で抱きしめたらコロス! と釘を刺しておかなければ、人目も憚らず抱きしめてしまいそうになるくらいに。

 校内にいる時は、決して話題にしてはならないふたりの生活。和人の待ちに待ったひとときがやってきた。 部活が終わり待ち合わせをして一緒に学校を出る、わざわざ遠回りして住宅街を抜ける駅までの十五分間。
「明日は僕が迎えに行くからね」
「いい。ひとりで行くから」
 素っ気無い理央の対応にも、むくれる気配はない。
「パジャマは用意したよ。もちろん、お揃いのね。あとね、いろいろ買ったんだ。足りないものは一緒に買いに行こうね」
 街灯が照らす明かりに和人の晴れやかな笑顔が浮かび上がっている。 理央はお揃いという言葉に一瞬、戸惑いを覚えたがそれでも反論するのは止めにした。
(パジャマなんて人に見せるものじゃないしな)
『貴方が幸せなら私も幸せ』そんな誰が言ったかわからない台詞も、確かにそうだと思う。 今の自分がまさしくそうなのだ。 それに和人のことだ、きっと買い物でもあれこれと理央の好みそうな色を吟味したに違いない。 理央は隣を遠慮がちに見上げ微かな微笑みとともに、「そうだな」と短い言葉だが心を込めて言う。
(ほんと、かわいいなあ。ここで抱きしめたら、膨れるよねえ)
 その表情は和人の大好きなもの。和人は足を止め、顔を覗き込んだ。
 すぐに瞳を伏せる仕草も、少し恥ずかしげに見上げる仕草も、全てを心に留めておきたい。 理央の頬が色づいているように見えるのは街灯のせいではないはずだ。 自然と心が弾んでしまう。だから、口調も明るくなる。
「お揃い、怒らないの? 絶対、嫌がられると思ってた」
「嫌がらせなのか?」
 まさかーと大げさに手を振り、
「新婚さんはお揃いが基本だから。でも理央くんはそういうの駄目って言いそうでしょう? それなら諦めよう、って思ってた」
「悪いけど、和人のしそうなことくらいお見通しなの。きっと食器とか歯ブラシもそろえてあるんだろ?」
 理央の言葉には、あははは〜と笑いで誤魔化しているが、理央にはわかるのだ。
(ビンゴ! だな)
「別にいい。人に見せるわけじゃないし。それに……」
「それに?」
「内緒」和人の気持ちが入ってるなら、暖かそうなパジャマだろ……?
「なあに? 何? 何〜? 」
 和人は周りに人がいない事を確認して、素早く理央を抱きしめ髪の毛にキスを落とした。

 和人の腕の中に包まれ理央は思う。こうして抱きしめられるのは何日ぶりだろう、と。実のところは、おとといぶり。昨日は一緒に帰らなかったから。たった一日。 それなのにこの暖かさを懐かしく感じてしまう。  和人にわからないように口元を緩め、温もりに瞳を閉じた。
「離せよ」
 だが出てくる言葉は心と裏腹に冷たい。
「素直じゃないね」
 苦笑しながら理央から離れ、早く明日にならないかなあと今度は嬉しそうに笑った。



 次の日。
 天気は上々、爽やかな風が和人の家へと向かう理央の髪を撫でる。新婚スタートに相応しい爽やかな陽気といえよう。
 ただ理央の心の内には、わずかな迷いがあった。
 ほかの人には取るに足らない、だが理央にとっては和人への愛を疑われてしまうような大問題。 何を今更、な状況なのだが本人としては真剣なのだ。
 その原因を作ったのは昨夜繋げたネット上のホームページ。一応、男と男の愛し方を勉強しようと思った理央。 早速サイト巡りをしたのだった。
(どう考えても痛そうだよなあ)
 やはり普段の状況からしても、理央が抱きしめられる側であり、痛みを感じるのは自分だという認識はある。 だから余計迷うのだ。もちろん愛し合いたいという気持ちは充分もっているつもりだが。
(痛いのヤだなあ。見なきゃよかった……。どんどん深見に嵌ったんだよなあ。一つ目でやめればよかったんだよ)
 ちなみに一つ目のサイトは、ただ『気持ちいい』と力説しているもので。
(見なけりゃ勢いでいけたのに)
 予習好きの性格が裏目に出た。はあーと後悔の念に囚われる。
 というわけで、ここに至り、『愛し合う』ことにかなり消極的になっていた。
それでもあの和人の幸せそうな表情を思い出すと、仮病を使うわけにもいかず、無理やり自分を奮い立たせる。
(一度やっちゃえばなんとかなるだろうか)
 意識せずともため息が漏れ、足が重くなるのであった。

 いつもより時間をかけ和人の家に辿り着く。
 門には今や遅しと弾けんばかりの笑顔を浮かべた恋人の姿。 それを視界にとめると、理央は逃げ出したい衝動に駆られその場に立ち止まった。 その行動に不思議そうな顔で和人が走ってくる。
「具合悪くなった?」と心配そうな恋人に小さく首を横に振ることで否定した。
 したくない、と言ったら和人はどう思うだろう。怒るだろうか、それとも平気だと、不安を取り除いてくれるだろうか。
「ちょっと緊張してるから」
「珍しいね。どんな時も緊張なんてしない理央くんなのに」
(そういえば、初めて和人の家族に会った時も緊張しなかったな。まあ、あの時は現実味なんてなかったし)
「手、つないで…ほしい」
 理央が手を差し出すと、すぐさま、いいよと和人の暖かい手に包まれる。怖さを和らげてくれる、綺麗な笑顔が目の前にある。 強がるのはやめよう。ふたりで乗り越えていこう。理央は「もう大丈夫だから」と、ギュっと握り返した。


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