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いつも一緒に〜ケセラセラ2

 そうは言ったもののやはり時間の経過とともに、緊張感は増していく。
 だから、なにげない真琴の一言に飛びついてしまったのだ。
『りおうちゃん、今日、ぼくと寝てくれる?』
 真琴に悪気はない。今日が和人にとってどれほど待ちわびた日だろうが、わかっちゃいないのだ。 そして渡りに船とばかりに、後先考えず頷いたのは理央だった。和人も「理央くんがいいなら、いいよ」と。
 その言葉に一瞬躊躇したが、和人の表情はうまく隠されていて、少なくとも怒っているようには思えなかったから。
 安心していた。



 すやすや寝ている真琴の隣で、理央は寝付けないまま、小指を目の前に掲げ、曲げたり伸ばしたりを繰り返す。
 冷静に考えるとやはりマズイ。
 和人がいかにこの日を待ち焦がれていたか、一週間分の表情が思い出された。
(オレ、相当酷い事してねーか?)
 夜中の一時すぎ。寝静まった真琴の部屋を抜け、和人邸に戻る。鍵をあけ、そっと中に入った。
 リビングドアの明かり取り窓が、時折、フラッシュが焚かれたようにピカピカ光るところをみると、 真っ暗な部屋の中、テレビだけがついているのだろう。
 ドアを軽く押すと、暗闇の中、ソファの上に和人を見つけた。片膝を抱え、ビデオを観ている。 和人や理央が生まれる何十年も前の白黒映画。それは、和人の好きな有名監督の作品で、DVDリリースされたものを一緒に買いに行った記憶がある。 その中でも和人のお気に入りが、今、画面に映し出されている映画だった。劇中で歌われる歌が大ヒットしたものだ。

 気配で感づいたのか、和人が口を開いた。
「おかえり。戻ってきたの? 理央くんの布団は、二階の和室に敷いといたから。もう遅いから寝た方がいいよ」
 顔を動かさずに、言葉だけが届く。
「和人は? 寝ないのか?」
「僕は映画、見てるから。終わるまでまだ一時間ぐらいはかかるし」
「それに和室って。一緒じゃ……?」
「だって、理央くん。それが嫌だから真琴の部屋で寝ようと思ったわけでしょう? 僕だって無理強いはしたくないんだよ」
 和人の静かな声が、感情を読ませない。振り向きもしない和人におずおずと問いかける。
「お…怒ってる?」
「怒ってたよ。最初はね。でも、わかるから。怖くて不安で悩んでるんでしょ? 男と女だったら、こんなに悩まないだろうって。 男同士のセックスのやり方が嫌なんだろうって。僕だって不安だよ。愛してるだけじゃ、超えられないものもある。 すごく痛くしちゃったり、感じさせてあげられなかったら? 僕も経験ないから大丈夫なんて言えない。自信もない。 そんなんじゃ、愛が深まるどころか、冷めちゃうかもしれない。  僕が、一番怖いのは君に嫌われることなんだよ。 やっと手にいれたのに……。大事な人なのに……。 それならやらない方がいいのかもって思い直していたとこ。だから……君が寝るまでここにいる」
 淡々と自分の考えを述べる和人。
「安心していいよ。夜這いなんてかけないから」
 微動だにせず、その表情も窺い知れない。
 ただ、理央には和人の周りに張り巡らされた透明な壁があるように思えた。背中を丸めた姿が『寂しい』と訴えている。
「でも一応、これからも夜は一緒にいない方がいいね。抑えられないこともあるかもしれないし。週末婚っていうのも解消したほうがいいかな。 早すぎたのかもしれない」
 理央は失念していた。和人の心が、理央の表情、態度、言葉のひとつひとつに左右されるということを。
 ここまで追い詰めている。
 和人は和人で不安だったのだ。
 なぜそのことに気がつかなかったのだろう。自分のことで精一杯で、和人の気持ちまで思いやる余裕がなかった。 にこやかな笑顔の下で、自信満々に見せかけて、一歩を踏み出すタイミングを計っていたのだろうか。
 言葉に出せずに自分ひとりで抱え込んでしまうのは、自分とよく似ている、理央は吹っ切れたように晴れやかな気持ちになった。
(悩みすぎだな)
 好きな気持ちに、理屈なんていらない。心で感じて、行動すればいいだけのことなのに。愛しい想いをぶつければいいだけのことじゃないか。 胸の奥深くでストンと何かが落ちた気がした。怖がってたらなにも始まらない。 ちょっと回り道したが、やっと心が追いついた気がする。

 理央はリビングの電気をつけ、部屋をあかりで満たすと、和人に向かって歩みだす。
 膝を抱える和人の前に立ち、いつもは見上げる顔を見下ろした。
 頬に手をあて、唇を重ねる。優しく、溢れる気持ちを込めて。
 自分から行動するのは、はじめてかもしれない。 抱きしめられる時もキスされる時も、いつも和人からだった。それも理央の心を読んだかのように、欲しい時にもらえたのだ。 それはフェアじゃない、と思う。 与えられるばかりで何も与えられないのは、パートナーとして失格だ。 お互いに高められる存在にならなければ意味が無い。

 和人は、理央の瞳を見詰めていた。この瞳に魅入られたのだ、と。惹きつけてやまない漆黒のゆらめき。
「ごめん……。オレ、自分のことばっかりで。和人の気持ち、考えてなかった。 わかったんだ。オレ達考えすぎだって。頭でっかちになりすぎだって。 逃げ回ってたことは謝るから。怖くない……っていったら嘘になるけど。昨日、ネットでいろいろ調べたんだよ。 そしたらびびっちゃって。それに、自分の身体みても興奮しねえし。 和人だって、オレの身体なんか興味わかないんじゃないかなあって思ったら、どんどんわけわかんなくなって。 もし身体の相性があわなかったらどうしようって。ぐるぐる悩んでた。 でもさ、どれも、まだ行動に移してない。現実じゃないんだよ。 ……身体の痛みはすぐ消える。一緒に乗り越えよう」
 それは自分にも言い聞かせているようなゆっくりとした言葉で。和人が理解してくれているかを確認しながら、続けた。
「大事なのはこの気持ち。 それが一番じゃない? 心に反応して身体も反応すると思うんだ。だから、もうあれこれ考えるのはやめよう。 オレは和人が好きだし、和人もオレが好きだろ?」
「好きだよ」
「なら、この手を掴んで。離さないで。一緒にいようっていう約束しただろ。 和人がオレの元からいなくなったら…。心の痛みはずっと残るから。それに…」
 理央が小指を差し出す。
「切れそうになったら、また結びなおしてやるよ」
 目の前は何もない。理央と和人にしかみえない、ふたりを結ぶ運命の。
 あたかもそこにあるようにちょうちょ結び。
「乙女モードスイッチオン! だろ?」
 俯き加減に笑う理央に和人の表情が和らいでいく。頬に添えられた理央の手をとり引き寄せ、 倒れこんでくる身体を支えると首筋に顔を埋めた。
「理央。愛してる」
 耳元近くで聞こえる少しかすれた声。
 理央は身動ぎして和人の胸から顔を上げ、すぐ間近にある瞳を覗き込んだ。真摯な瞳に映る自分が見える。
「和人。好き。行こうよ、オレ達の部屋に」
 テレビからは古いアメリカ映画の音楽が流れてきている。ケセラセラ。なるようになる、と。
 Whatever will be will be. The future's not ours to see. …What will be will be.




次は一八禁とさせていただきます。
一八才未満の方は、ここのNEXTページから最後のページにジャ〜ンプ。
一八才以上の方で、ふたりの絡みOKの方は、NEXTからはリンクしませんので、ノベルページより飛んでくださいませ。
それではそれぞれお楽しみ頂ければ幸いです。


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