クリスマスは誰と?〜6

 何かをするよりもまずヒビキに連絡をいれました。
 きっと待ちわびているでしょうから。

『怪我は? どこか痛いとこないか?!』
 通信が始まり、まず最初にヒビキが問いかけたのがその言葉でした。
「大丈夫だよ、ヒビキ。どこもなんともない」
 ノノムラが笑みを零し、ありがと、と素直な気持ちを伝えました。
『バカ。心配するなんて当たり前なの! お前はオレの大切な人なんだからな』
「ん」
『ヒダカさんがそっちにいてくれてよかった。頼りになるな、やっぱり』
「ま、……な」
 本人が隣にいるせいで、少し口ごもるノノムラです。自慢したい気もありましたがそこはあくまで控えめに。それ以上は誤魔化すことにしました。
 そんな彼を横目にヒダカがクスクスと笑っています。
『無傷で助け出すって宣言してたぞ。……ホントに良かった』
 それだけ想われてて。
 言外に届く友の声。
 茶化すことのないヒビキの穏やかな笑みに、
「ああ。感謝してる」
 チラと視線を流し、なんてことない風に言うのですけれど。
 照れていることは赤い頬が証明済みで。
 早く切り上げた方が良さそうだと親友には思われたのかもしれません。
『帰る日は予定通りだから。じゃあな』
 言うなり、切られてしまいました。

「なんだよ、自分だけ喋って切りやがった」
「気を利かせてくれた……だろう?」
 口づけするように顔を寄せてくる恋人に、寸前でノノムラが突き放しました。
「風呂、風呂入りたい! それからなんか食べさせて?」
 なんたって三日も入っていないのです。近くにいることすら気になってしまうのです。しかも空腹。 満たさなければならない欲は順番待ちの状態で、性欲が一番最後というのも仕方のないことではないでしょうか。
 ヒダカが苦く笑い、天井を見上げました。
「俺は最後なの?」
「だって汚いし」
 ボソボソと言い始めるノノムラに彼も微笑みを浮かべます。彼の気持ちはもちろんわかりますから。
「わかったよ。でもこれだけ」
 遮られる前にちゅっと唇を奪ったのでした。

◇ ------------------------------------ ◇


「おいでおいで」
 ヒダカの部屋に入るなりベッドから手招きをされ目を丸くするノノムラ。
「つか、なんで既にベッド!」
 風呂、食事と済ませ、家族に顔を見せてきて、彼の元へ戻ってきたところです。
「いいから。今日は一緒に寝ようね。だから早くおいで」
 たった今風呂から出たばかりなのでしょうか。髪がしっとりと濡れています。そしてベッドに入って恋人を待つ彼は、普段のパジャマ姿ではなく、しっかりと裸でした。
 ベッドヘッドに凭れる上半身は見惚れるほどに美しいのですが、 ヤル気を見せる青年に、つい笑ってしまいます。
「もしかして下も脱いでる?」
「なにそれ。穿いてるって」
「なんか怪しい」
「何もしないよ。ちゃんと寝かせてあげるから」
 その状況で何もしないなんて、誰が信じるのでしょう。今時の女の子だって信じませんよ、そんな言葉。
「俺、どうしようかな……」
 疲れているし、ゆっくり眠りたいし。
 でも。
 温かな腕は何よりもノノムラの望むもの。抗いがたい誘惑でした。
 それに、何かしてくれてもいいと思いました。
「セイイチロ」
 誘うことも恥ずかしくなんかありません。
「しよっか」
 心の半分が、いや、きっと半分以上が望むことだからです。


 熱い口づけを交わし、ぶつかりあう瞳と瞳。
 ヒダカがふわりと笑みました。
「キラキラしてる」
 潤んでいるのは自覚があるノノムラですが、そんな風に乙女ちっくに言われることは心外で口を尖らせます。
「余計なことはいい」
 言い返してくるのも嬉しいのでしょう。愛しさいっぱいに髪を撫でてくれる恋人の肩に顔を埋めてみました。
「しないの?」
「ゆっくり……時間をかけて愛したいんだけどな……」
 困ったような声音を聞くのが好き。
 普段、冷静な人のそんな変化を見るのがノノムラは楽しくてたまらないのです。
 なんだかもっと困らせてみたいような気がして。
 耳朶を舐め、甘く噛んで。首筋に這わせた舌がねっとりと肌を弄りました。彼が自分にするように。
 ピクッと身体が震えたのを見逃しません。
「感じた?」
 喉仏に唇を押し当てたまま問います。
 けれど笑う振動を唇に感じ、目線を上げました。
「くすぐったかった」
 うーん、と不満げに唸るノノムラ。
「だけど俺も簡単に落ちるんだな、これが……」
 いとも容易く体勢を逆にされ、上にヒダカを見て。
「なんか怖いよ?」
 悪戯っぽく瞳が笑いました。
「そういうのが好みだろう?」
 ヒダカはそう囁いた後で耳朶を吸い、齧り、嘗め回します。それだけでも声が出そうで、ぎゅっと唇を噛み締めました。
「聞かせて」
 指が唇を解くように撫で、顎、鎖骨と辿り、胸の敏感な部分にたどり着きました。
 きゅっと摘まれれば、弾かれたように身体が波打ってしまうのです。
「んっ」
「感じさせて欲しい? 答えて」
 抗えないのは、低い声音のせいでしょうか。腰にくる響きなのです。
 そう言われるだけでじくっと滲んでくるのがわかります。
「しろよ……セイイチロ」
 震える声に、口づけをくれました。
 愛してると吐息が触れます。
「すぐにイっていいから」
 下へ下へと彼の頭が下がっていくのを止められません。
 自分で慰めることもなかったここ数日。
 どれだけの快感が待っているのか、身体の方が覚えているのでしょう。
 口内の熱さを、ねっとりとまとわりつく舌を、食む唇の柔らかさを思い返しただけで、そこに力が集まってしまうのです。
 フッと息を吹きかれられました。
 そのわずかに刺激にビクンと震え、待ちわびて。
 吐息とともに含まれ。
「はぁっ……あぁ」
 甘く零れる声。
 ヒダカの口であやされる己の分身は涙を流し喜んでいました。
 くちゅくちゅと水音が響き、直接的な刺激に身体が蕩けていきます。
「気持ちいい?」
「気持ちい……んあ、っあ」
 早すぎだと自分でも思うのに、こればかりはどうにもできなくて。
「ああっ、あっあっ、ん――っ、も、ヤバ」
 なんとか耐えようと身体に力をこめても、けれどなんの効果もなく、声ばかりが出てしまいます。
 顎をそらせ、足先がシーツを蹴りました。
 すぐにでもいきそうな快感に離してほしいと彼の髪を掴みますが、
「いいよ、楽になって」
 このままいかせるつもりのようで、離してはくれません。
 遣り過そうとしても、押し寄せてくるものが大きすぎるのです。
 彼の舌がくびれを這い、先端をつつきました。
 喉の奥で吸い上げるように深く深く引き込まれれば、目の前にチカチカと星が煌きそうで。
「はあっ――アァッ」
 己の放つ嬌声もまた高みへの手助けにしかならなくて。
 頭を振り、添えられた掌までが上下に動くのを視界に入れれば、視覚的にももう限界でした。
「っ――!」
 身体を震わせ。
 激しいまでの開放感がノノムラを包み込んだのでした。



 脱力して手足を投げ出したままのノノムラを穏やかな瞳が見つめます。
 伸ばされた指先が頬を撫でました。何度も何度も。
 髪を梳き、その髪にそっと口づけを落して。
「キョウ……キョウ……」
 合間に耳に届く声に、胸が切なくなり。
 しがみつくように背中に腕を回します。
 自分はこの人のもので、この人は自分のもの。
 そんなフレーズが浮かびます。紛れもなくそうなのでしょう。
「無事で良かった」
 微かに目を細め、己を見つめる人を愛しい想いで見つめ返しました。
「セイイチロがいるのに、」
 この世でただひとり愛する、他人。
 どんな時でも信じて待つことが出来るのは、彼だからです。ノノムラが認めた男だから。
「俺に何かあるはずないじゃん」
「そういうことをサラッと」
 頬を染め微笑む愛しい人に、小さく笑い、
「……スイッチ、入っちゃったよ」
 ヒダカが言いました。
 え、と遠くを見た恋人には再び優しい口づけから、淫らな夜の続きをはじめましょう。
「大丈夫、殿下たちが帰ってくる頃には解放してあげるから……」
 耳元で囁く彼に幸せな表情を見せる青年です。
 こんな風に拘束されることも嫌ではありません。
 満たされた気分で、誰よりも愛しい彼に口づけを返しました。

◇ ------------------------------------ ◇


 二十五日はシノブたちが戻ってくる日です。
 その時を今か今かと待っていました。
 早く友に逢いたい、おそらく友も同じように思っていることでしょう。
 そして昼ちょうど。
「ただいま! ノノムラ、いる?」
 ヒビキがバタンとノノムラの部屋のドアを開けました。
「おかえりっ!」
 抱き合い互いの無事を確認して。
 それからお土産と掌に乗せられたものは小さな球でした。
「掌で温めて、それからこうやって振るんだ。カシャカシャ音がするだろ? 三秒数えて……。ハイ、見て見て見て〜」
 わあ、とノノムラが声をあげます。
「綺麗」
 ただの白色だった球が青く光り出したのです。
 それ自体が発光する不思議な球。 時に強く、時に弱く、緩やかな点滅を繰り返して幻想的な光を放っていました。
「他にもいろんな色があるから貰ってきた。ほら、前に見たクリスマスツリー。あれの飾りがこれなんだって」
 ヒビキの掌を見つめます。
 なんだかわくわくしてきました。
「すげーな」
「さすがノースライツだろ」
「うん」
「これから飾りに行く?」
「あ、俺、全然飾りつけ進んでないんだけど……ごめんな」
「何言っちゃってんの? ふたりでやる方が早いし楽しいんだよ」
 綺麗に唇をカーブさせ、口にする言葉は思いやりに溢れています。

「ノースライツってどんな国だった? 他に何か変わったものとかあった?」
「まあまあ、これからじっくり話ししてやるって」
 ヒビキがノノムラの肩を抱き、自分達の部屋へと促します。
「で、今夜だけどさ。ワインも用意してもらうし、食事もたくさん用意してもらうし。みんなでパーティ。いいよな? もしかしてヒダカさんと過ごしたい?」
 足を止め、問うてくる親友に、もちろん笑顔で返しました。
「バーカ。最初からそのつもりだし。約束したじゃん。それにお前が帰ってくる前にパーティするって言ってあるもんね」

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 この日、お城のホールで開かれた大パーティ。
 ヒビキがいてシノブがいて。
 家族や友人達がいて。
 己の隣には優しい恋人。
 初めて迎える異国のお祭りは、一生でそう何度もあることではないでしょう。
 それならば、こんな特別な日は大切な人と、そして大好きな人たちと過ごすのが一番だとノノムラには思えました。
 綺麗に飾り付けられた巨大なクリスマスツリーを皆の笑顔が囲み、見上げています。
 飲んで食べてお喋りに花を咲かせ。
 久々に大騒ぎをして楽しい時間を過ごし、疲れた身体を休めるのはもちろん愛する人の腕の中。
 メリークリスマス。
 ヒビキから教えてもらった幸せになれる呪文を口にして、夢の中へと落ちていきました。

 そして。
「てめえ、コーヒー何度ぶちまけば気が済むんだよ。次やったら樹に吊るすからな、覚えとけ!」
 幸せボケでしょうか?
 次の日のノノムラは全く使い物にならず、シノブに怒鳴られっぱなしだったこともまた、付け加えておきましょう。


 おわり。

2005/12/25
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