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貴方しか見えない 1
「っ!」 飛び起き、すぐにスモールライトをつけた。ほんわりとしたオレンジ色の明かりで満たされる部屋。 目に優しいその光で、やっぱり夢だったのだと今更ながら確認する。 「またあの夢……」 煩いほどに鳴り響く心音。なんとか心を静めなければ。自分のものじゃないような息使いに両手で顔を覆ってみるけれど、頬にふれる手が震えていた。 嫌な夢を見た。 時々見るのは母や父を亡くした時のもの。 白い霧の中に立つ母さんと父さんがどんどんと離れていき、姿が消えた後には 薄暗い部屋の中で自分の声だけがふたりに呼びかけているという毎回同じ夢だった。 ただ、いつもと違うシーンがあったような気がする。それはなんだったっけ? どんなのだっのか、その内容さえ記憶に残らないほど混乱していた。 「母さん……。忘れてしまいたいわけじゃないんだ」 いつになったらこの記憶を自分の中で消化できるのだろう。 緊張をほぐすようにひとつ大きな深呼吸をして、掌にかいた汗をパジャマで拭った。 「相川さん、まだ起きてるのかな?」 いつのまにか同居人と化した恋人。自分の立派なマンションがあるにもかかわらずここに戻ってくる人。 誰もが振り返る美貌の持ち主なのにオレのことを好きだといってくれる変わり者。 だけどオレにとってすごく大事な愛しい人。 営業という仕事柄、付き合いも多くて帰ってくるのはいつも夜中すぎ。 だからといって酔っているかというとそうでもなく、それからも部屋に篭って朝方まで仕事というハードな生活を送っている。 すっかりオレとは違う生活リズムを刻んでいるから、身体の関係があるとはいっても休みの日以外はほとんど接触がなかった。 「ちょっと見に行くか」 今日も接待から帰ってきたのが真夜中。それまで勉強しながら待っていたけれど『おかえり』と『おやすみ』の挨拶を同時にして寝ることにした。 そしたらあの夢だ。オレを不安にさせるいつもの夢。こんな時はあの人の傍にいたい。 ベッドから降り、自分の部屋を後にした。 ついでにキッチンに寄り、カラカラに乾いた喉を潤した。 相川さんが使っている和室の襖の隙間から灯りがもれている。まだ起きているようだ。 時計は午前二時半をさしていた。 十センチほど襖を開け中を覗き込む。丸いちゃぶ台の上のPCとにらめっこ中の相川さんはオレに気づかない。 重要なデータを映し出しているのだろうか、一心に何か考えているようだった。 ここで入ったら邪魔になるかな? 早く切り上げさせるのも彼の身体の為だし。 自分と彼を納得させる都合の良い口実をつくり声をかけることにした。 「まだ寝ないの?」 「わっ! びっくりした!!」 大袈裟にビクッと身体を揺らして。目をまん丸に見開き、振り向いた額には『驚いた』と極太文字で書かれていてもおかしくないほどの動揺ぶり。 「ご……ごめんっ」 思わず謝った。だってこんなに驚かすつもりじゃなかったから、ちょっと罪悪感が込み上げる。 彼が心臓発作を起こしたら間違いなくオレのせいだよ。それは避けたい。 「あ、いや。ちょっと考えごとしてたから。それに悟君、もう寝たと思ってたしね。……どうした? 夢でも見た?」 すぐに穏やかな表情に戻って心配してくれる。 それほど心細い感情が表に出ているのだろうか? それともこの人がそれだけオレのことを思ってくれているから? 心配かけちゃいけないのはわかってるんだけど……。 「ただ目が覚めただけ……。相川さんはまだ仕事?」 「んー。そろそろやめようか」 おいで、と手をひらひらさせて。引き寄せられるように襖の隙間から入り込み目の前に座ると、途端に包み込まれた。 「久しぶりだな。こうするの」 首筋に相川さんが顔を寄せて。そこで喋るから声がくぐもって。なんだか触れられているところからじわじわと熱くなる。 身体全体に広がっていく熱。首に腕を回し交差した。 「んん……」 「明日も早いな、どうしよう?」 ほんとに困ったように笑う。 「あ」 だけど気づいたんだ。無理させちゃいけない、って。最近のこの人の睡眠時間は多分三時間ぐらいだから。 これ以上削ったらきっと倒れてしまう。 「そう……だよな」 身体を離した。 「ごめんなさい。もう寝るよ。相川さんも早く休んだ方がいいよ?」 安心させるように微笑む。努力はした。 した、けど。失敗したとわかったのは、溜息とともにぎゅっと拘束されたから。 「ごめ……」 「悟」 穏やかな声。その温もりが気持ちよくて強張っていた身体の力が抜けてくのがわかる。 「相川さん……」 泣きそうな声を誤魔化すように彼のTシャツを掴んで胸に顔を埋めて頬をすりつけた。 「もっと俺に甘えていいんだ。もっと我侭でいいんだ」 頬に両手が当てられ上を向かされると、目と鼻の先に微笑んでいる相川さんがいて。 あまりの至近距離に頬が赤くなるのを感じる。この距離はほんと心臓に悪い。 見惚れるほどに綺麗だなんてぼうっと思ってしまう。 そんなオレの心の内を楽しむかのように面白そうに余計に見つめられて、彼の瞳に幸せそうな顔をした自分が映っていた。 「顔がつぶれちまう」 頬を挟まれたまま文句を言ってみる。 「君は自分を抑えすぎ」 もっと心を見せてごらんよと唇が触れた。どこまでも優しくて。深い愛情を示してくれる。 「傍にいて。貴方がいないと……眠れない。もう何日も愛し合ってない……から。抱きしめてほしい。貴方で満たして欲しいんだ。貴方が……好き、です」 今の自分の気持ちを伝えようとすればするほど切なくて。胸が塞がれるほどに苦しくて。 どうしようもないほど彼を好きな自分がいた。 一生かけて地球上捜し歩いたってこんな人には二度とめぐり合えないだろう。 貴方に逢えたことが奇跡みたいで、その瞳に映ることが嬉しくて、涙が滲む。 「悟君の告白? 可愛いこと言ってくれるね。ずっと我慢してたのに。これじゃ我慢できないだろ?」 目の前の秀麗な顔が、子供みたいに無邪気な笑顔を見せてくれた。 「そんなの、しなくていい」 「ということは覚悟はいいね?」 「して」 口付けを強請る。 駄々っ子のように身体を押し付け、背筋の寒くなるような甘えた声を出してみる。 そうすれば断れないとわかっているから。 電気の消えた部屋に障子ごしの月灯りがほんわりと差し込み、シンプルな家具達を浮き上がらせる。 和室に一組の布団。普段ベッドで慣れてるだけに、自分の家ながらイヤラシさ倍増だと思う。 相川さんが手にしたグラスの氷がカランと音を立てた。 ウイスキーを飲みながら仕事をしていたのか、少しだけ残っている琥珀の液体。彼が喉に流し込む様子を眺めていた。 「飲みたい」 「子供は駄目」 「少しだけ」 「これで我慢しなさい」 向かいあう彼の瞳の優しさがオレを包み込み、引き寄せられるように唇を重ねていた。 僅かな液体とひと欠片の氷。口移しに流され甘い香りが口の中に広がる。 オレには強すぎるアルコール。だけど氷のおかげでその強さを感じなかった。 口の中がひんやりとして気持ちいい。 「もっと欲しい」 「酔っても知らないぞ」 「もう酔ってるかも」 何に? とか馬鹿なことは聞くなよ? その辺の下手な突っ込みはしない相川さんは目で笑っただけで、望みどおり二口目をくれた。 「これでおしまい」 今度は口いっぱいに含まされ、一気に飲み下したのはいいけど喉が焼けそう。おまけに氷をなかなかくれないし。 彼の口の中に留まっている氷をとろうと舌で追いかける。 だけど舌技は彼の方が何倍も巧妙で。なかなか渡してはくれない。取ったと思うと取り返されるんだ。 キスというより氷の奪い合い。 「氷、くれよ」 なんか頭がぼーっとしてきた。身体が火照る。アルコールのせいか興奮のせいかよくわからない。多分両方なんだろうけどね。 「目が潤んでるよ?」 ふふっと笑い布団に身体を押し付けられた。 「氷はとけてなくなりました。かわりにキスしてあげる」 甘い言葉と魅惑の微笑み。 「うん」 何故か嬉しくなって応えてる自分がいる。どうしちゃったんだろうっていうぐらいハイな気分。 下唇を舌でなぞられ挟み込まれる。相川さんの舌先が冷たくて、もっとその冷たさを感じたくて、誘い込む。 激しいキスが欲しいんだ……。 だってこんなに感じてるんだよ。ホラ、貴方にわかるでしょう? 身体が火照って仕方がない。 「熱いよ、身体が熱い。ねえ、相川さん。どうにかして」 涙まで出てくる。求めはじめた身体は自分ではどうにも出来ない。これを鎮められるのはこの人だけ。 「顔も赤いし、身体も赤いし。全く困った子だねえ」 唇を重ねながら彼の手がオレの髪を梳く。優しい動きのその指は耳から頬に下りて鎖骨を辿りパジャマの中へ。 胸の敏感な部分を掠めるように撫で回されたあと、急に摘まれ、電流が走ったみたいに身体が跳ねた。 「んっ」 舌を絡み取られ、声は彼の口の中へと吸い込まれ。 愛してる、の言葉と共に唇がわき腹から下腹部へと移動していった。 「やっ」 舌先が触れる場所全てがビリビリして神経が研ぎ澄まさせていくようだ。いつもよりも感じるのはやっぱりアルコールのせい? 「へん……になるっ」 「いいよ、なって」 「あ……っ…んっ!」 内腿をさするように動く唇の感触。ゆっくりと這う舌。指は胸のあたりを彷徨っている。 だけどそれから先に進んでくれない。悪戯に興奮を誘う指先と舌の動きに焦れる。 もっと直接的な刺激が欲しい。 「ねえ、触って。直接、ぎゅってして」 「ここ?」 下から覗き込むように微笑んでいる相川さん。 普通の状況だったら蹴りのひとつも飛んでるところだけどそれどころじゃない。 「してほしい? お願いして?」 興奮状態の自分のモノが目に入り一瞬答えを躊躇したが、ここは恥ずかしさよりも目先の気持ちよさを選んだ。 「お……お願いだから。手、してよぉ」 泣きそう……。馬鹿みたいだと思いつつ、なりふりかまっていられない状況ってこういうことをいうのかもしれない。 相川さんの手に握られてオレのモノがぐっと質量を増したのがわかる。ゆっくりと扱かれて。 「強く、して」 瞳を閉じて快楽に身を任せる。キモチイイ。 吐息が漏れる。 そのうち暖かいものに包まれ、そのねっとりとした感覚に自分がふっとびそうだった。 唇全体で扱かれ、舌で敏感な先を突付かれて。 唾液のくちゅくちゅという音までが刺激を増長していく。それでなくてもここまで焦らさせてるのに。 「や……口はいや! すぐイっちゃう」 ほんとに涙がこぼれた。辛いとか悲しいとかそういう涙じゃないことは彼にもわかってるはずだ。 気持ちよすぎるとか興奮しすぎるのが涙となってあらわれるから。 自分の腕で涙を拭いて、やめてくれと懇願した。 「イっていいから」 一向にやめる気配も見せず、一段と強めに上下する。指は後ろを解そうと動いてるし。 前と後ろから攻められてるオレは快感を追う事しかなかった。 「はあっ! もうっ! ダメッ! イっちゃう……っ! あぁっ!!」 いつのまにか腰を揺らして、放っていた。彼の口の中へ。 飲み下す音がしたのも束の間。 「次は俺の番ね」 余韻も何もなく、脱力したままの身体を転がされ、身体中にキスの刺激を受けて。 待ちわびたかのように再び力を取り戻すオレのモノ。 「すごいね、そんなにたまってた?」 アンタはどうなんだよとは言い返せないほどにオレのソコは確かに元気だった。 「んあっ!」 身体を反転させられ足をM字に広げられた。されるがままの状態。彼が一気に貫いてくる。 「今日の君は一段と色っぽいから……。俺もそんなにもたないかも。だけど気持ちよくしてあげるから」 そういうと確実にポイントをついてくる。 何度も身体を重ねることで、前だけじゃなくて後ろでも快感を得られるようになっていた。 だんだんと激しくなる彼の息遣いが、オレの心も攫っていく。 「んっ! やっ! そこ、やぁ!」 「気持ちい…い?」 快感で埋め尽くされてる心と身体。激しく頭を振りすぎて、ぐるぐるしてきた。 「俺もすごく……イイよ」 身体を折り曲げられ全てを曝け出すこの体勢は恥ずかしいし苦しいのだけど、掠れた声で切なげに微笑む彼がよく見えるからそんな痛さも忘れられる。 両手を伸ばし彼を求めて。 この身体で気持ちよくなってくれるならいくらでも差し出すから。 「貴方が……好きっ! ぁっ…」 この気持ちはとめられない。 「俺も」 額に浮かんだ汗を拭ってあげると、口元に浮かぶ笑みがより深くなる。 「キス、して」 求めればいくらでもしてくれる口付け。 「貴方を愛して……、貴方がオレを愛してくれて、よかった――……」 「最高の、愛の言葉だ、ね」 心から嬉しそうに微笑んで。 一瞬、静かな空気が回りを包んだ。 それを壊すように律動を開始すると、また淫靡な空気に変わっていく。 ぎりぎりまで引き抜いたものを突き刺して。苦しそうに眉を顰めて小さな喘ぎが彼の口から零れる。 それを消すように自分の口から零れる嬌声。 「はぁ! あっあっあっ!! んっ!」 指がオレ自身に絡まる。強い快感を与えられたモノはあっけなく二度目を放ち。 その後、彼がひときわ深くついてくる。 オレをその腕に閉じ込めぎゅって抱きしめられた時、彼が弾けたのを感じた。 溜息のような吐息を耳元に残して。 それは夜中に見た夢の欠片。 ――お願い行かないで! その言葉で飛び起きたんだ。 「どんな夢だったのだろう」 はっきりとは思い出せない。ただ『恐ろしい』という感じだけが残っていた。身体が震えるほどに。 これほどまでに心が締め付けられるのはひとつだけ。彼を失う恐怖しかありえない。 どこにも行かないよな? 「……ゃない」 呆れるぐらい頼りない声が小さく響く。 「現実じゃない……」 自分にそう言い聞かせていた。 だけど心に立ち込めはじめた灰色の霧は、何かを隠すように、誰の目に触れさせないかのようにあたり一面を覆っていく。 「臆病になっちゃ駄目だ」 何かに侵食されていく感じにどうにも落ち着かない。 隣でまだ眠りについている彼を見つめて、無理矢理、心に蓋をした。 2003.08.11 |
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