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貴方しか見えない11
朝方まで愛し合って抱きしめられて眠った、ようだ。いつ寝たのか覚えてなかったからあやふやな記憶だけど、確かに彼の体温は感じてたから。 多分、何回目かで意識が飛んだんだと思う。久しぶりすぎて腰が痛い。だるくて、動くのも辛い。容赦なかったもんな……。 「……にしても、快晴〜」 カーテンが開けられた窓から見えるのは、昨日の天気が嘘みたいにどこまでも突き抜けそうな綺麗な空。だけど空気は冷たいことを知っている、なんて体験済みの冷気を思い出して身震いした。 こうしてる分にはその寒さも別世界たけど。 暖房ですみずみまで温まった部屋。日差しが気持ちいいベッドの中でまどろんでいた。 彼は一足先に起きたのだろう、何かキッチンで用意してくれてるようだ。コーヒーの香りが漂ってくる。 「起きた?」 顔を覗かせた彼が、 「大丈夫?」 柔らかく微笑んで、ドアに凭れた。 白いシャツを捲り上げていて、肘から下のラインにスッと浮かび上がる筋肉にドキドキしたけど。 力強い腕を思い出して頬が赤くなりそうだったけど。 奇跡のようにカッコイイ男ではあるけど。 大好きなんだけど。 心配してくれてる人はとても爽やかで、昨日見た疲れた表情は、ない。 ……ムカツク。 「さっぱりって感じ」 あははと笑う顔も曇りがない。 余計むかついた。 「そんなことより、起きられる? 今日、帰国日だよ?」 「えーっ! オレ観光したい! 折角来たのに! っ!」 飛び起きた瞬間、腰に響いて、唸った。 その時、腰にあたった金属の感触。なんでオレは今まで気がつかなかったんだ? 腕にはめられていた時計に。 それは黒に近いような青の文字盤のクロノグラフ。これなら日本とアメリカの時間が一目でわかる。……オレもすぐに変換できるけど。 「こ、れ?」 ベッドサイドまで来て、唸ってるオレの腰をさすりながら、 「寝てる間に着けといた。ちょっと遅れたけどクリスマスプレゼント……。 クリスマス用の限定品をつくる話があってね。有名デザイナーに頼んでデザインされたものを、男女千個ずつ販売したんだ。 シリアルナンバーも入ってる。 それを元につくらせたんだけど、販売ものとは文字盤の色を変えてあるし、ケースの素材も変えてるから同じものは無いよ。 それに君の場合、女ものだと小さいし、男ものだとゴツイだろう? だから中間サイズのものを頼んでおいた」 相川さんが自分の腕のものを見せてくれた。確かにゴツイかも。 「それマズイんじないの? 仕事に私事を持ち込んで……」 「別にタダで貰ってきたわけじゃない。それ以上に貢献してるんだよ、これでも」 軽やかに笑う。 「オヤジがこっちに来る時に秘書に頼んで持ってきて貰ったんだよ。手元にないと真っ直ぐ君のところに帰れないだろう? よかった、持ってきてもらってて」 「やっぱり、これって公私混同ってやつじゃ」 「俺が帰れなくなった原因なんだから、それくらいしてもいいんじゃない?」 仕事だから、ということが抜けてる気もする。 でも……。 いいのかな、貰っても。 「シリアルナンバー、ゼロ……」 裏蓋には、アルファベットで『ZERO』って入ってる。その下にはお約束のように『H&S』 「そう。一応、デザイン的にシリアルナンバーは入れてあるんだ。どの番号でも世界にひとつだけなんだけど。 ゼロって、なんか特別って感じがしないかな? 君と俺のはどうしてもそれを入れたかった……。限りなくお揃いに近いだろう?」 愛しそうにオレの腕を撫でて。 「本体はチタンだから軽いし丈夫だよ。愛の証にしては、ちょっとちゃちだけど。……いらないなんて言わないで?」 漲る自信が影を潜めた。不安そうに心を揺らしている、そんな感じで。 オレの為に。オレを喜ばせるだけの為に。勿体無いと思った。 だけど嬉しい。とても、かなり、すっごーーく! ありふれた表現しか出来ないけど、最上級の嬉しさが溢れて爆発しそうだよ。 「有難う。すっげ、カッコイイ! 相川さんのも見せてよ」 外した時計の裏を見せてもらうと、そこにも同じように入っていた。 「オレ、プレゼント持ってきてないんだ。日本に帰ったらまたクリスマスのやり直しをしような」 「プレゼント? 君だけで充分だったけどね」 柔らかな微笑みが冗談ではないと伝えてきて。恥ずかしい。 「さ、そろそろ起きて」 「やっぱり観光はなし?」 未練が……。 「俺を迎えに来たんだろう? それなら目的は達したんだから、つべこべ言わずに帰るよ。はい、目覚めのキス」 頬に唇が押し当てられて、ペロッと舐められて離れた。 「はあ……。つまんないの」 「次は一緒に来ようね。春休みでも夏休みでも」 恨めしげな視線に苦笑しながら、妥協案を提示してくる。それならそれでいいっか。当初の目的どおり、彼を連れて帰るとするか! そしてケーキを買って、クリスマスをやり直そう。 「よっし! 我が家に帰るか」 「俺達の家に」 彼がとても綺麗に微笑んでくれる。だから、オレも笑みを返す。だってそれだけで幸せになれるから。 空港に迎う途中で野々村君の家に寄り、滞在中のお礼と携帯を返した。帽子は新しいものを添えて。 梨佳さんにも、忍さんや響君にもお礼を言わないといけないね。 助けてもらわなければここまで来れなかった。背中を押してもらわなければきっと立ち尽くしていた。 もういなくならないでと思う。 だけどそうなった時でも、次はもっと強くなれる、そんな気がした。 見上げれば頬が緩んでしまいそうな、綺麗な青。 この同じ空の下、願う。 大切な人達、みんなが幸せでありますように――……。 2003.12.22 |
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