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いつも一緒に12 〜揺れる想い〜


 朝の出来事があってから、理央はそのまま学校を出た。
 今までしたことのない初めてのサボり。もともと真面目な性格の為、授業を抜け出したことなど無いし、一人で繁華街をうろつくなど以ての外だった。 だが今は、兎に角、気分を落ち着かせなければ授業など受けられそうもなかった。
(サボるヤツの気持ちが少しはわかった気がする)
 きっとみんな悩みが多いんだな、と、それがなんともお子様な考えだとは思ってもみない理央である。
 この時間学生など街にいないだろう。目立つかもしれないと思いつつ駅に向かう。
 見たい映画などなかったけれど、映画館にでも入れば二時間後には冷静になれるかもしれない。
 誰にも連絡せずに繁華街目指して電車に乗りこんだ。



「終点ですよ?!」
 いつの間にか眠っていたらしい理央が揺り起こされ、慌てて電車を降りると何故か潮の香りがする。
「あ……れ?」
 着いた先は、海。
 どうやら反対方向に乗ってしまったらしい。今の理央には目的地などあってないようなものだ。映画が海に変わったところで大差ない。 むしろ海の方が気分上昇には向いているかもしれない。 改札を抜け、赤い橋を渡り砂浜に下りる。

 波音だけが響く真っ青な海が目の前に広がっている。足跡のついていない砂浜を歩き、波打ち際まで進んでいった。 ローファーが濡れないようにギリギリに佇む。
 雲ひとつない四月の真っ青な空。海の青はそれより少しだけ薄くて、空から視線を落としていくと青のグラデーションのようだ。 暖かな日差しが降り注いでいる。瞳を閉じると、波の音に混じって彼の呼ぶ声が聞こえた気がした。
『理央くん     りおうくん         りおう          リオウ』
「和人……」
 小さく呟いた。
 運命の赤い糸は切れてしまった?
 そんなもの最初から繋がっていなかったのか?
 この胸にある切ない想いは、偽りのものなのだろうか?
 様々な疑問符が頭の中で廻っている。
「かずと……」
 ただ一時の盛り上がりだったのか?
 運命か否か
 それを決定づけるもの、それはお互いがどこまで想いを貫けるかではないだろうか。「もういいや」そう思った時点で全て終わりだ。

「お兄ちゃん、どっか痛いの?」
 いつの間に近づいてきたのか、真琴より少し大きいぐらいの子供が立っている。その後ろには家来のように白い大きな犬。 山岳救助で活躍するピレネー犬だ。心優しいこの犬は主人に忠実で、非常に賢いとされている。
「泣いてるよ?」
 指を頬に当てると、雫が指先について来た。
「大丈夫だよ」
 慌てて涙をぬぐい、安心させるようにニコリと微笑んだ。
 海沿いに立つ洒落た家を指し、「ぼくの家あそこだよ」と嬉しそうに話し、犬は弟だという。 小学校が早く終わったから遊びに来て、お兄ちゃんを見つけたと笑った。 その手には子供用グローブと青いゴムボールが握られている。犬相手のキャッチボールらしい。
「男の子は泣いちゃいけないってママが言ってたよ。泣きたいときは『オモイデ』にしたいときだって。だから悲しくても、がまんしなくちゃいけないときもあるんだって。それに楽しい事、思い出せば楽しくなるって」
 おにいちゃんは『オモイデ』にしたくて泣いてるの?と。
(思い出に?)
「したくない……。けど、お兄ちゃんの大好きな人は思い出にしたいのかもしれない」
 子供は、ふーん、と判ったのか判らないのかどちらともつかない様子で首を傾げていだが、  「じゃあその人は泣いてるのかな」 とポツリと漏らした。
 和人の泣いたところなど想像も出来なかった。微笑みを絶やさない和人。表情の変化が現れたのは、あの時。 「友達だ」と言ってしまった時の辛そうな顔。自分が傷つけた。そう思うとやりきれなさで一杯になる。
「どうだろうな」
 子供の母がそう言ったのは、泣き虫の息子を宥める手段だったのかもしれない。ちょっとの事で泣いたり、全然泣かなかったり。そんなものは個人差なのだから。ましてや大人と子供では『泣く』意味合いも違ったりする。 それに悲しみを癒す為に涙が流れるのは自然なこと。その分、心の傷も癒えるし、立ち直りも早いのではないだろうか。
 だが、その子の母の諭しは、理央の心に響いた。
「オレは、もう泣かない。お母さん、いいこと言うね」
 自慢の母が誉められたのが誇りなのか、大きく「うん、そうだよ」と頷いている。
「ありがとな」
 子供の頭をくしゃくしゃと撫でると顔を見上げ嬉しそうに笑った。


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