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いつも一緒に13 〜貴方へ伝えたいこと〜
新学期早々にしてサボった理央。 結局、あの後、子供にキャッチボールを誘われ、夕方まで一緒に遊んでいた。 とはいっても、普段、弓は慣れてるがボールというのはちょっと違うようで。 投げる毎に違う方向に飛んでいき、「おにいちゃん、へたくそー」と容赦ない声が飛んでいたり、 そのたびに、犬が大きな体をユサユサと揺さぶりながら取りに走っていったりの連続だったのだが。 しかし、そのおかげで、起きた頃には気分が浮上していた。そうすると、不思議と未来も明るく感じてくる。 思えば、何も悩むことなどないはずだ。 ただの誤解なのだから。 はっきり「友達じゃなくて恋人」 そう伝えれば済むことじゃないか。このまま終わらせるわけにはいかない。もう一度きちんと話しをしたくて、自分の気持ちを伝えたくて、朝、和人にメールをした。 もしかしたら連絡があるかも。そう思うと、一日中携帯とにらめっこしていたが、一向にメールは来ず、携帯も通じないまま。 休み時間も教室まで行ってみたが、すれ違ってばかりで顔を合わせることはなかった。 折角、高揚した気分が、だんだんと沈んでいく。 (ほんとに、もう嫌われちゃったんだな) そう思うしかなかった。 「理央、集中しろ!」 相模の強い口調に我に返った。 朝の晴れやかな気持ちは、時間が経つにつれてどんよりとした気分に覆われて、そして、気づけば放課後。 理央は気を紛らわす為、部活に出ている。道場に来ればいつも集中出来るのに全く集中出来なかった。 時に、弓道は危険なスポーツだと言われる事がある。鋭い矢を使っている為、一歩間違えれば怪我、否、怪我で済まない事もあるからだ。 それだけ精神力と集中力を高められるのだが、今の理央にはどちらも欠けているのは明らかで。 その証拠に的には一回も当たらなかった。 (何してる集中だ!) シュッ! 「痛っ!」 離れの瞬間、弦が頬に当たり理央の頬は見る見るうちに赤く腫上がっていった。 「大丈夫か?」 心配そうに相模と先輩達が走り寄ってくる。 『保健室に行って薬でも塗って貰って来い』という先輩の言葉に素直に従い、 トボトボとひとり道場を後にした。 心此処に在らずの自分が情けなくて、不甲斐無くて、自己嫌悪に陥っていた。 保健室で摺れた頬に薬を塗ってもらっていると乱暴にドアが開き、駆け込んできたのは和人だった。 道場から出てくる理央を見たのだ。何が起こったのかを相模に聞いて、今の二人の状況など考えもせず飛び込んできた。 「理央くん!?」 顔の腫れを見たその顔は心配そうで、自分の事のように痛そうで。 理央はこみ上げそうになる涙を必死で堪え、 「はい、もう行ってよし」 保険医が理央を急きたて、小さく礼を言うと和人の顔を見ないままその脇をすり抜けた。 その後を和人も付いていく。 「送るから、一緒に帰ろう?」 いつもと同じ穏やかな表情。 「なんでっ?!」 「なんでって、怪我してる……」 「違うっ!! どうしてオレに構う?!」 どうしてそんな顔で見れるのだろう。和人の中で、自分はどういう存在なのだろう。 わからなくて。 不安定な理央の感情の糸が切れた。 「どうして来た? もう一緒にはいられないんだろ? メールだって朝送ったのに、携帯だってかけたのに。無視してるじゃないか! 今になってどうしてそんな心配そうな顔したり優しくしたりするんだよ! 忘れるんだろ? 忘れて欲しいんだろ? なのに――……ッ」 ここが学校だとか、誰かに聞かれてしまうとかそんなことは理央の頭には無かった。 あるのはただ、目の前の和人の事。 脆くなった心が悲鳴をあげている。 「忘れてやるからっ!! もう二度と」 「泣かないで」 「な! ……泣いてないっ」 (泣いたら思い出になってしまう! それだけは嫌だ) 拳に力をいれ、足を踏ん張り、泣くまいとすればするほど視界がぼやけ、和人の顔が歪んで見えた。 「理央くんに泣かれると辛いから」 「ッ……ぐっ……」 喉からは堪えていた嗚咽がもれる。 理央は俯き、自分の足元に視線を落とすと涙がぽろぽろと零れ落ち、溢れる涙で床を濡らしていく。 二人の間には人一人分の距離があった。 まるで溝のようだ。 踏み出せば、元に戻れるだろうか。 踏み出したい、踏み出そう。そう思った瞬間、和人の足が一歩前に出され、手が首の後ろに回された。 引き寄せられ、 「忘れるなんて出来ないよ──。君が中三の時にココに来たでしょう? その時から君を想っていたんだから。苦しくなるほど。……ずっと、恋してた」 初めて知らされる事実を黙って腕の中で聞いていた。 (告白するより前? ずっと想っていてくれた?) (だからすぐにあの時『いいよ』って言ったのか……) 「君への想いを止められなかった。だから一人で北海道に行った。黙ってて、ごめん」 気が付けばいつも和人が側にいた。 ちょっと冷たくあしらっても、いつも微笑んでいたから。 だから、それが自然で。そういう関係に慣れてしまっていた。 いなくなることなんて考えていなくて。 もう誤魔化さない。自分の気持ち。 距離をおいてみて初めてわかったのだ。 もう離れることは出来ないのだと。 かけがえのない人なのだと。 和人が女子生徒と一緒にいるのを見たとき、気が狂いそうになった。それが嫉妬だと判るのに時間が掛からないほど、気持ちは溢れている。 「ごめん……。ごめんな。オレ酷いこと言った。……友達なんかじゃ嫌なんだ。オレも、いつも一緒にいたい。毎日一緒に起きて、一緒にご飯食べて、一緒に出かけて。……いつも一緒に」 ――もう一度、君のお父さんに会いに行くよ ――今度は二人で頼もうね ――一緒に居られる様に 和人のその言葉が胸に染みる。 「ちゃんと話するから」 理央のその言葉に抱きしめる腕に力がこもり、「今日、携帯、家に忘れてきたから」と耳元でくすくすと楽しげに囁く声が聞こえた。
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