トップページに戻る■■NOVEL TOP■■←BACK■■NEXT→■■

いつも一緒に4 〜いたずら好きな彼

 初めての土曜日。
 待ちに待った休みだ。 理央の家に行く約束をした。理央は拒んだけれど、和人に押し切られたのだ。こういうところは、告白された側の方が有利に決まっている。

 理央からの思ってもいなかった告白に、和人は舞い上がっていた。
 今まで数え切れない程、聞いてきた『付き合ってください』の言葉。 その誰から受ける言葉より、嬉しくて。
(神様ありがとう)
 もちろん神に感謝する心は忘れない。 この場合の神がイエスさまでないのは母には内緒だ。
 母が敬虔なクリスチャンである為、神社にお参りというのはしない霧生家である。 だが和人だけは毎年、密に初詣にも行っている。今年の願いは『理央に再び逢えますように』だった。
(お参りの効果があったのかも。来年のお賽銭は倍にしよう)
 隣に並んで歩く理央に視線を向けると自然に顔が綻んでしまう。 「なあ、他に映画行くとか、どっか行こうぜ……。うち、来てもつまんないし」
 何度となく聞かされる同じセリフ。
「だめー。理央くんの家に行きたいの。家族の方にも逢いたいし」
(それが一番イヤなんだよ……)
 理央の母は綺麗なもの、可愛いもの大好きで人形、ぬいぐるみは基よりキッチングッズに至るまでコレクションは計り知れない。 そんなところに和人を連れて行ったら。 考えただけでもウンザリする。
 ちらっと隣を見、和人のにこにこと楽しそうな顔に、はぁーーと深ーく大きい溜息がもれるのだった。



「ここオレんち」
 案内されたのは、最寄駅から十分の住宅街。暖色系の壁色の二階建て。小さな門にはパンジーが左右対称に掛けられ、玄関扉に続くアーチにはそこかしこに小花の鉢が並べられている、いかにも『ガーデニングに凝ってます』という風情を醸し出していた。

「かわいらしい感じだね」
「かあさんの趣味……。あんまり誉めるなよ、図に乗るから」
「ただいまー」 玄関をあけ室内に響く声に、 おかえり〜……と答えながら玄関まで来た母が、理央の後ろにいる人物に目を止め、しばし固まる事数秒。
理央が声を掛けなければ、このままの状態が続いただろう。
「この人は同じ学校の霧生和人サン。こっちは母親。ハイ、どうぞヨロシク……。とりあえずあがる?」
 勝手に挨拶を締めくくった理央に、開口一番出たのはやはり、 「んまーー、なんて綺麗なの〜〜〜。どうぞあがって。散らかってるけど、気にしないでね〜。お茶菓子、何かあったかしら〜〜」
歌でも歌いそうな勢いでリビングに戻る母。

「おめでとう、お気に入りコレクションに仲間入りだ……」
 半ばやけくそ気味に言われた言葉にも、
「気に入ってもらえるなら嬉しいよ。嫌われるよりいいじゃない?」
 嬉しさを隠し切れない和人。
「それもそうだな」
 でも何かひっかかる ───
 何か心がもやもやしてすっきりしない。
(嫌われるよりはいいハズなのに) この不機嫌の理由はなんだろう。
 頭の隅に沸いて出た小さな疑問。振り切れないまま、リビングに向かう。
 母親が入ってから何分も経っていないのに、テーブルの上にはおせんべ類、クッキー類が所狭しと並べられていた。 コーヒーを入れ、和人の目の前に座った母の恵子。

「さて……」
 早速、住んでる所、家族構成、などなど質問攻めだ。
 それに和人はひとつひとつ丁寧に答えていく。その結果、家は扇学園を挟んで自分の家とは正反対であったし、父親は会社役員であること、弟がひとりいることなど知った。 思えば、理央も和人の事はよく知らないまま告白したのだ。だからこの時だけは母に感謝をした。

 和人も恵子から理央の家族のことなどいろいろ聞き出し、それぞれ収穫のある時間を過ごした事には変わりない。
 ひとしきり家族紹介らしき話が終わったあと、
「ガーデニングが趣味ですか? 庭が綺麗ですね。部屋もカントリー風でかわいい感じだし、恵子さんの雰囲気にぴったりですね」
 その一言に理央は、ぶわっと噴出しそうになるコーヒーを辛うじて堪えた。口に含んだ液体をゴクリと飲み干し、和人と母の顔を交互に見やる。 両方とも満足げだ。
 和人ファンをひとり獲得した瞬間。
(お前はホストか!!!) 心の中で罵声を浴びせる。
「そうでしょう! そうなのよ〜。うちの男性陣はだーーーれもわかってくれないのよ。嬉しいわ〜〜〜。さすが和人くん、女心がわかってるのねー。あー、もう大好きっ!」
 語尾にハートマークが見え、 和人も溢れんばかりの笑顔で「もっと褒めるべきですよね?」 などと同意している。
(好きだとぉーー! 全くどいつもこいつも。オレを無視して盛り上がりやがって!) 黙って聞いていた理央がすかさず口を挟んだ。
「浮気もの! おやじに電話してやるっ!」
「いいわよ〜。たまには心配させて妬かせるのもいいかもね〜」 ふふふん〜どうぞどうぞと本当に電話してほしそうだ。  その言葉で、立ちかけた姿勢のまま……止まった。
「妬かせる?」 考えは小さな呟きとなって口から零れた。
── もしかして
 必要以上に、にこやかな笑顔の正体。普段より確実に五割、否八割増しだ。 隣に座っている和人に視線を移す。
── わざと?
 あまり自分以外の人間に笑顔の大盤振る舞いはして欲しくない。 例え、それが母親であってもだ。 でもそんな事は教えてやらない。(思い通りになんてなるもんか)
 ニヤリと笑うと再び椅子に座り、すましてコーヒーを飲んでいる隣の人物にだけ聞こえるように囁いた。
「嫉妬なんてしないからな」
 和人は何も言わずただ微笑み返すだけ。ただその瞳に宿ったいたずらっぽい光の正体が気になるが。
 それから延々と恵子のガーデニング談が続き、和人も一緒になって春に植える花の選定を手伝っているのだった。すっかり打ち解けている。 その姿を見ると、嫉妬はしないといいつつもやはり面白くない。まるで蚊帳の外だ。不機嫌さがMAXになろうかというところで、

「そろそろ失礼します。今日は楽しかったです。有難うございました。また来てもいいですか?」
 華やかな笑顔で確実に心を掴む。計算高い和人。ただ悪気はないのだ。これもひとえに理央といたい一心のこと。
「もちろんよ〜いつでも来てね。理央がいなくてもいいわよ」
「それはないだろ?」 あきれたように理央が言うが、ありえなくもない……と思い始めていた。 ちらと和人を見ると、やはりにこにこしているだけで心の中は読めなかった。



 それが現実になったのは数日後の休日。
 この日の午前中、弓道の練習があった為、特に和人とは約束をしていなかった。
 それなのに ───
 練習を終え、帰宅すると家の中から母の笑い声が騒がしい。だが、お客さんらしき人の靴はなく。 テレビでも見ているのかと思った。
「ただいまー」 聞こえるように帰宅を知らせると、おかえり〜〜の声と一緒に出てきたのは、和人。
「なななななななにしてんだ???」
 思わずどもってしまうくらい、瞬きを忘れて目が乾くくらい、吃驚した。
「何って? 朝電話したんだけど。理央くん練習でいなくて。でも午後には帰ってくるから待ってていいって言われたんだよ」
「靴は? ないじゃん」
 玄関の転がっているのは理央のスニーカーばかり。
「ここに入れたよ」指されたのは靴箱で。
「ひとんちの靴箱に勝手に入れんなーー!!」
 でも整理整頓はしなくちゃいけないでしょ? とぶつぶついう和人をリビングに引っ掴んでいく。  怒りの矛先は母だ。「何勝手に呼んでんだよ!」 ひとりテンションの上がっている理央。
「別にいいじゃないの。和人くんとはお友達になったの。お友達を呼んで何が悪いんですか? 理央君?」 のほほんと気にも留めない母。
 ぐっ……言い返せずに詰まってしまう。頭が混乱し、何が何だかわからない。いつも母には言いくるめられてしまうのだ。それがいかに理不尽であっても ─── 妥協するしかない。
「はいはいはい。わかりましたっっ。……でも和人! 今度から来てるなら連絡すること。いいな!」
 片手を挙げ了解の意を示す。 理央のお出迎え権を手に入れた和人の表情は、普段以上に嬉しそうで。

(オレって振り回されてる?) すっかり和人のペースに嵌ってる事に気が付いたのだった。


トップページに戻る■■NOVEL TOP■■←BACK■■NEXT→■■
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送