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いつも一緒に6 〜プロポーズ?〜


 それは突然だった。

 理央は隣でコーヒーカップを手に微笑んでいる恋人 ── といっても初キスをバレンタインに済ませたばかりの初々しいふたりだ ── に視線を合わせた。
『ねえ、結婚しようよ』
 幻聴で無ければ確かにそう聞こえたのだ。

「今、何か言ったか?」
 確認の為、もう一度聞いてみた。
「なんだよぅ。プロポーズは一回なんだよ、普通」
 少し拗ねたような和人だったが、微笑みは絶やすことなく、「あと一回だけだよ」と人差し指を立てている。
(聞き間違いじゃなかった……)
 がっくりと項垂れると、頭の上から「結婚しよ」 と楽しげなフレーズが降って来た。
(待てよ、これはヤツお得意の冗談かも知れないっ!)
「和人、今日はエイプリルフールじゃないんだゾ。気づいてるか? 本気じゃ……ないよな?!」
「知ってるよ。本気も本気。一緒にいたいから」
「そんなこと言ったって。第一、親が良いって言うわけないだろ? どうすんだよ」
「じゃあ、親の了解とったらいいんだね?」
 そんなのありえない、そう思った理央は、渋々ながらOKした。



 そんな話があったのが、金曜日の夕方。
 自分の家とは別方向の理央の家まで、一緒に勉強という名目でくっ付いて来た和人とリビングで寛いでいた時であった。
 その時、母は買い物中で理央と和人の二人しかいなかった。
 帰ってきた恵子に早速、和人が話しをする。
 すると恵子は考えるまでもなく、「いいんじゃない?!」と。
 あまりの即答ぶりに、
「え?! いいのか?? もう少し考えた方がいいだろ? そんなんで親と言えるのか??」
 理央が驚きのあまり詰め寄る。
「だって家族が増えるわけでしょう? 楽しいじゃない〜」
 そういう解釈もあるが、その前に男と男の結婚だ。論点がずれてるような気がするのは理央だけらしい。
 というわけで、理央の母はなんなく陥落した。

 理央の父、史朗は北海道に単身赴任中。和人はまず自分の家族から固める事にした。



 そんな訳で、今、理央は和人の家の前にいる。
 実はこの日、初めて和人の家に来たのだ。
「すげーっ」
 開口一番、出たのはその言葉で。
 ここは祖父の代からの家で、敷地五百坪に建つ平屋の日本家屋。
 庭は四季が感じられるような木々が植えられ、庭師が入っているのだろう、手入れが行き届いている。
 だが、その一角には、小さなイギリス風庭園となっていて、バラやハーブ類が植えられていた。そこは母親の持分なのだろうか。理央の母を連れてきたら、きっと似非ガーデナー魂を揺さぶられるに違いない。

 家族に会う前にと案内されたのは、母屋から離れた小さめの家。そこが和人のものだという。
 一階は広めのリビングと水回り。二階に三部屋あり、そのうちの一つが和人の部屋だ。 普通のサラリーマンがローンを組んでまで憧れるような家。それを既に高校生が持っている。
(世の中、不公平だよ……)
 親を思うとしんみりしてしまう。
「それにしても凄いよな。掃除とか食事とかひとりですんの?」
 和人がどんな生活をしているのか興味が沸いた。そういえば全然聞かなかったから。
「掃除はするよ。これが大変で。でも食事は向こうで取るから」
 にこやかに答え、指したのは、母屋。そこに両親と六才の弟が住んでいる。
「弟は? 今日はいるのか?」
「みんないる筈だよ。昨日、揃っててって言ったから」
 ふーん、と気の無いフリをしてみたが、 (この人の家族ってどんな人達なのだろう? きっと俳優も真っ青の美形揃いに違いない)
 妄想で頭が一杯になる理央だった。
「緊張しなくていいからね」
「しねーよ。別に」
 そう、強がりではなく、ほんとに何も感じなかった。
 理央は、片時も離れたくないとか、あの人がいなければとかそんな風に考えたことはなかったから。
 和人と一緒にいるのは楽しい。ただ、今のままでいいと思っていたのだ。
(なんで結婚なんて言い出したんだろう?)
 横に立つ彼の顔をチラと伺うと、幸せそうな表情の和人と眼があう。
 彼の気持ちがわからない。
 自分の気持ちを見透かされそうで視線を逸らせた。
 和人が両親に告白したとき、彼の家族はどんな反応を示すのだろう。
 白い眼で見るだろうか?
 もしかしたら、勘当?
 そこまで追い詰めているのは自分?
 和人の事を思うと少しだけ罪悪感があった。
「そろそろ行こうか?!」
 ん、と小さく頷いて、和人の後に続いた。



 母屋の玄関を通り、居間へと通される。
 そこには既に家族三人がテーブルにつき、紅茶を飲んでいる最中だった。
 和人が入ると、皆、席を立ち、理央の前に歩を進める。
「彼は清家理央くんです。こちらは僕の両親で、霧生隼人と霧生エリカ。そして弟の真琴」
「はじめまして、清家理央です」
 やや、ぎこちなくも自己紹介は無事に済み、にこやかに手を差し伸べられ、両親と握手した。
 目の前にいるのは、やはり俳優真っ青の両親と、人形かと見紛うばかりの可愛らしい子供。
(ほんとに男の子? さすが、和人の弟。お気に入りコレクションに仲間入り決定!)
 もちろん母・恵子のである。
「珍しいね、和人がお友達を連れてくるなんて」
 父の霧生が笑顔を絶やさずに話しかけてくる。
「お父さん、お母さん。真琴も聞いて欲しいんだ。僕は彼と結婚したいと思ってる」
(うわっ! 言っちゃった…………)
 理央は和人に眼を向け、そして両親、弟の顔を順繰りに見た。
 現実とは思えなかった。ヒトゴトのように感じて。

 沈黙が場を支配する。
 皆、何か考えるように黙り込んでいた。

(それは正しい反応だよ。うちの母さんはどっかネジが飛んでるんだよ、やっぱり)
 和人は? というと、のんびり、自分で入れたコーヒーに口をつけている。
 そこに緊迫感は ─── 無い。
 そんな中、先に言葉を発したのは母のエリカ。
「お母さんは、和人がいいなら……。いいですよ。ねぇ、あなた?」
 隼人も頷き、「私達は和人を信頼しているからね。真琴?これからお兄さんが増えるからね」
 真琴も「にいちゃま?」 と可愛らしく顔を傾げ、理央を見つめていた。
 これにはさすがに理央も焦った。
「えっ!? いいんですか?」
「えぇ。和人のこと、よろしくね」
 イギリス人ハーフ母の綺麗な顔が表情を綻ばせる。
(この家族おかしいよ……。でも、和人の家族だけのことはある。確実に遺伝を感じるもん)
「じゃあ、みなさん。これから僕のお嫁さんをよろしく頼みます」
「だだだ……誰が嫁だよっ!」
 顔を真っ赤にして怒鳴る理央だが、『まあ、可愛いわね』 という言葉を耳にして、怒る気力も失せた。
 見回すと、皆、満面の笑顔で。
(やっぱり、流されてる)
 楽しそうな家族を前に、打開策は思いつかない。

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