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いつも一緒に8 〜子供の虐め(下〜
相模の想像通り、会場付近は異様な熱気に包まれている。 発信源はもちろん和人らしく、男女問わず、口々に噂をしているようだった。 その中の一つの言葉が相模の気を引いた。『綺麗な人達がいたわね』と。 (人達??? 和人の他に誰かいるのだろうか?) 「理央、先に行ってろ。俺、ちょっと観覧席の方、見てくるから」 「ちょっ! 相模、もうすぐ始まるぞ?!」 すぐ戻るから、と振り向きもせず走り去る相模の後ろ姿を、 見送りながらも勝つことしか頭にない理央だった。 相模が観覧席に近づくにつれ、ざわざわと声が大きくなる。 人々が見ているその方向に、和人がいた。が、まるでそこだけ別空間。 そこにいたのは、綺麗なブロンドの巻き毛が良く似合う色白の女性と、その女性をエスコートするように背中に手を添えている長身の男性。 和人の足に纏わり付いているのは、より一層イギリスの血が濃そうな母親似の可愛らしい少年だった。 誰とも言わず、明らかに和人の家族であることは見て取れた。 そしてもう一人、少年と同じぐらいの子供。ニコリともせずに和人を見ている。 (うわっ!最悪だ。家族連れてきやがった……) 悪夢再び。そんなフレーズが頭に浮かびそうなほど、相模の気力が萎えた。 試合開始。 理央が射場に姿を現し、弓を構える。 ピーンと張り詰める空気。 理央が光り輝くオーラに包まれる瞬間。 弓を持つ落ち着き払った姿とは反対に、的を直視する理央の瞳から、強い光が放たれているのが遠目にも判る。 それは感動を覚える程美しく、鳥肌が立つほど凄烈で。 和人は知らずに息を止めていることに気が付き、小さくふぅと吐き出した。 すると、隣の両親も同じように息を吐くところだった。きっと同じように感じてくれているに違いない。 そう思うと嬉しくなり、視線を合わせ、小さく微笑む。 『これが僕の理央くんなんだよ』 言葉は無くても、その瞳はそう語っているようで隼人もエリカも微笑み頷き返していた。 強い力が矢に伝わり、吸い込まれるように飛んでいく。 「 ビュンッ ダンッ! 」 理央は持ち前の集中力で、三回戦全てを的に当たる『皆中』により、相模達と共に予選突破。 扇学園を優勝に導き、また個人戦でも、集中力は途切れず優勝した。 因みに、相模は「もっと精神修行しよう」の個人戦三位に終わった。 表彰式が終わり、控え室に戻ると携帯が鳴っている。 和人からの呼び出しだ。 急いで着替え、呼び出されたひと気の無い体育館の裏に走った。 そこにいたのは、和人と両親、真琴。そして見慣れない少年もいる。 (あっ、こいつか?!) 真琴より大柄なその子は、和人たち家族とは少し離れた場所に立っていた。 「理央君、おめでとう」 父、隼人に抱きしめられた。この家族は抱きしめるのが日常なのだという事に初めて気が付いた。 「あ、有難うございます」そういう生活に慣れてない理央には戸惑うばかりだが。 「あら、私もおめでとうを言いたいわ」 自分と同じような背丈の母エリカにも抱きしめられ、耳元で『おめでとう』が響く。柔らかないい香りがして、へへと照れ笑いがもれる。 理央は和人からも熱烈な抱擁が来るかと身構えたが、おめでとうと投げやりに言われただけで。 あまりにもらしくない様子に、少し拍子抜けした理央が、その真意を見抜こうと鋭い視線を送っていたが、横を向いたままの和人からは何も読み取ることは出来なかった。 「りおうちゃん?」 腰に手が廻り、下を見るとにこにこと纏わり付いているのは真琴。 「やっぱりかっこよかったね。ぼく、りおうちゃん大好きだよ。りおうにいちゃまは、かずとにいちゃまと同じくらい好き」 その姿に一瞬にして頬が緩んだ。 (うわっ、可愛いーー!) 今までこんな可愛い生物には、逢ったことが無い。 (この親すげーよ、こんなの産み出すんだもんな)と妙に尊敬してしまう理央だった。 ……とこんなことをしてる場合ではないのだ。 問題は真琴が虐められているということだ。 「和人? この子が真琴の幼馴染か?」 小さく頷き、その子の手と理央の手を取り、両親には聞こえないように離れた場所に連れて行った。 ずっと無言だった少年は、突然、理央の手を掴むと、「オレもあんたみたいなかっこいいお兄ちゃん欲しい!」 と。 その瞳は真剣だ。 「はい?」 理央には、今ひとつこの状況が飲み込めない。 和人が苦笑して、一足先に環から聞いた原因を説明しはじめた。 ひとりっこの環は、優しい兄がいる真琴がずっと羨ましかった。 それでも、遊びに行けば自分にも優しくしてくれるからそれで満足していたのだ。 だが、そこにもう一人、兄が増えるという。それも和人に負けないくらい優しくてカッコイイいいらしい。 しかも最近は理央の話しかしないそうだ。 そこでちょっと面白くない環は、情報過多の世の中、男と男が付き合うのを「ホモ」と言う事を知り、妬み半分、面白半分で真琴を虐めていたと。 しかし今日、理央を見て認識を改めたらしい。 テレビゲームに嵌っている環である、異空間のような弓道の世界は、彼をヒーローにした。 「それで今日優勝しろっていったのか?」 和人を見上げると、 「そうだよ。理央くんの良さを分からせるにはコレが一番だから」 と弓を引く真似をする。 「今日、真琴と環くん二人を連れてこようと思ったんだよ。 君の姿を見せれば、きっと環くんの考えも変わるんじゃないかなーって。 それは大当たりだったね。 だから。お父さんとお母さんが来たのは予定外。 結局、これも良かったんだけどね。君の魅力を知らしめたんだから。あっ、そうだ」 理央に近づくと、ふわっと風が起こり腕の中にすっぽり抱きしめられた。 「優勝、おめでとう。理央くんはやっぱり素敵だね」 「環が見てるぞ……」 吃驚したような表情の少年を眼の端に止め、理央が苦笑する。 渋々と和人は理央を離し、 「でもこれはうちの挨拶だから。さっきお父さんもしてたでしょ? ね、環くんも見てたよね」 あー、そうか! うんうんと急に表情が明るくなった環に、 表情を和らげ、立て膝をつき子供の目線に合わせる。 「もう真琴を虐めないで。いいね。環くんは真琴と仲良しだっただろ? また仲良くしてあげてね」 コクリと頷く環の頭を、理央はわしゃわしゃと撫で、「真琴は他の子より小さいから守ってあげろよ。泣かせない様に。約束だ」 自分のヒーローから小指が差し出されている。 環はその指をじっと見つめ、やがておずおずと指を結んだ。 「約束」と小さい呟きが届き、微笑む理央に環も嬉しそうにニッと笑った。 「さて、行くか」 三人が待つ場所に、環を真ん中に手を繋いで歩いていった。
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